ICI投与中の低Na血症をどう考える?―副腎不全だけではない鑑別のポイント

免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)投与中に低Na血症を認めたとき、まず思い浮かべたい病態の一つが副腎不全です。

とくにICIによる下垂体機能障害ではACTH分泌低下症を来しやすく、倦怠感、食欲不振、悪心などの非特異的な症状と低Na血症が診断のきっかけになります。

しかし、ICI投与中の低Na血症をすべて副腎不全で説明できるわけではありません。がん患者では、嘔吐・下痢・食事摂取不良、SIADH、併用薬、腎機能障害、心不全など、複数の原因が重なっていることもあります。

この記事では、ICI投与中に低Na血症を認めたときの考え方を、実臨床で使いやすい形に整理します。

目次

先に結論

ICI投与中の低Na血症では、次の順番で考えると整理しやすくなります。

  1. 意識障害、けいれん、強い悪心・嘔吐、循環不全などの緊急性を確認する
  2. 血清浸透圧と血糖を確認し、本当に低張性低Na血症かを判定する
  3. 尿浸透圧と尿中Na濃度から、水排泄と腎でのNa保持の状態をみる
  4. 消化器症状、摂取量、体液量、腎・心・肝機能、併用薬を確認する
  5. ACTHとコルチゾールを同時に測定し、副腎不全を除外する

特に重要なのは、続発性副腎不全では高K血症を伴わないことが多く、尿所見もSIADHに似ることです。「Kが正常だから副腎不全ではない」「尿中Naが高いからSIADH」とは判断できません。

低Na血症は「Na不足」とは限らない

血清Na濃度は、体内のNa量だけでなく、Naに対する水分量の割合を表しています。したがって低Na血症では、単純なNa喪失だけでなく、水を十分に排泄できず希釈されている可能性を考える必要があります。

まず確認したいのは血清浸透圧です。

  • 低張性低Na血症:一般的な低Na血症の鑑別へ進む
  • 高張性低Na血症:高血糖などによる細胞外への水移動を考える
  • 等張性低Na血症:著明な高脂血症・高蛋白血症などによる偽性低Na血症を考える

ICIは1型糖尿病を起こすこともあるため、低Na血症をみたときに血糖を同時に確認することは重要です。高血糖があれば、実測Na値だけでなく補正Na値も踏まえて評価します。

ICI投与中に考えたい低Na血症の原因

病態ICI投与中に想定される原因鑑別の手がかり
続発性副腎不全下垂体炎、ACTH単独欠損症、長期ステロイド投与後の視床下部-下垂体-副腎(HPA)系抑制倦怠感、食欲不振、悪心、低血糖、好酸球増加。Kは正常のことが多い
原発性副腎不全ICI関連副腎炎、両側副腎転移・出血など低血圧、脱水、高K血症。ACTH高値、レニン上昇、アルドステロン低下
SIADH原疾患、とくに小細胞肺がん、肺・中枢神経疾患、疼痛、悪心、薬剤低張性で尿が希釈されず、尿中Naが保たれる。副腎・甲状腺・腎機能異常の除外が必要
体液量減少嘔吐、下痢、食事・水分摂取不良、ICI関連腸炎口渇、起立性変化、体重減少、BUN/Cr上昇。腎外喪失なら尿中Naは低値になりやすい
腎からのNa喪失利尿薬、シスプラチンなど、尿細管障害、ICI関連腎障害尿中Na高値、腎機能・酸塩基・尿所見の異常。利尿薬使用中は尿中Naの解釈に注意
体液量過剰心不全、肝硬変、ネフローゼ、進行した腎不全浮腫、胸水、体重増加など。ただし有効循環血漿量は低下し得る
甲状腺機能低下症ICI関連甲状腺障害、下垂体機能障害TSHだけでなくFT4を確認。明らかな低Na血症の主因となるのは通常、重症例
高血糖などICI関連1型糖尿病、ステロイド性高血糖など血清浸透圧が低くない。血糖補正後のNaで評価

ここで注意したいのは、「ICIを使用しているからirAE」とは限らず、反対に「がん患者だからSIADH」とも限らないことです。ICI関連腸炎による体液量減少と副腎不全、原疾患や薬剤によるSIADHなど、複数の病態が併存する可能性もあります。

実際の鑑別:5つのステップ

1.最初に緊急性を判断する

低Na血症の症状はNa値だけでなく、低下の速さにも左右されます。

意識障害、けいれん、強い傾眠、呼吸状態の悪化などを伴う症候性低Na血症は緊急対応が必要です。また、低血圧、低血糖、発熱、嘔吐、著明な全身倦怠感を伴う場合は、副腎クリーゼも想定します。

重症例では原因検索と治療を並行して進めます。副腎クリーゼが疑われる場合は、可能であれば治療前にコルチゾールとACTHの採血を確保しますが、結果を待ってステロイド投与を遅らせてはいけません。欧州内分泌学会(ESE)のICI関連内分泌障害ガイドラインでも、採血後、直ちにヒドロコルチゾン投与と輸液を開始することが推奨されています。

一方、副腎不全に対するグルココルチコイド補充後は、バソプレシン分泌の抑制が回復して水利尿が急に生じ、血清Naが予想以上に上昇することがあります。慢性または発症時期不明の低Na血症では、血清Naと尿量を頻回に確認し、浸透圧性脱髄症候群(osmotic demyelination syndrome:ODS)を避けるため過剰補正に注意します。欧州の低Na血症診療ガイドラインでは、血清Na上昇の上限を最初の24時間で10 mmol/L、その後は24時間あたり8 mmol/Lとしています。これは一律の「補正目標」ではなく、超えないための上限です。

2.血清浸透圧と血糖を確認する

低Na血症を見つけたら、まず低張性かどうかを確認します。血清浸透圧が測定されていなければ、血糖、BUNなどから計算値を参考にすることもできますが、病態が複雑な場合は実測値が有用です。

高血糖による低Na血症であれば、低張性低Na血症とは治療方針が異なります。

3.尿浸透圧と尿中Na濃度を確認する

可能であれば、輸液や利尿薬によって所見が変わる前に、血液と尿を同時に採取します。

  • 尿浸透圧100 mOsm/kg以下:水を適切に排泄できている。多飲や溶質摂取不足などを考える
  • 尿浸透圧100 mOsm/kg超:バソプレシンの作用が残っている。体液量減少、SIADH、副腎不全などを考える
  • 尿中Na 30 mEq/L未満が目安:循環血漿量低下に対し腎がNaを保持している可能性
  • 尿中Na 30 mEq/L以上が目安:SIADH、副腎不全、腎性Na喪失などを考える

日本の「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版」に示されたSIADHの診断基準では、低浸透圧血症にもかかわらず尿浸透圧が100 mOsm/kgを超え、尿中Na濃度が20 mEq/L以上であることなどが挙げられています。診断基準の概要

ただし、尿中Na濃度は利尿薬、輸液、腎機能、摂取Na量などの影響を受けます。単独の数値で診断せず、臨床経過と合わせて解釈する必要があります。

4.「水が多いのか、Naを失ったのか」を病歴から考える

採血結果だけでなく、次の情報を時系列で確認します。

  • 下痢・嘔吐の回数と持続期間
  • 食事・水分摂取量
  • 体重と血圧の推移、起立性変化
  • 尿量
  • 発熱、疼痛、悪心、呼吸器・中枢神経症状
  • 浮腫、胸水、腹水
  • ICI以外の抗がん薬と投与時期
  • 利尿薬、オピオイド、抗うつ薬、抗てんかん薬などの併用薬
  • ステロイドの使用歴、減量・中止時期

ICI関連腸炎があれば便回数だけに目が向きがちですが、低Na血症の背景として体液量減少がないかも確認します。一方、悪心や疼痛そのものがバソプレシン分泌を刺激し、SIADH様の尿所見を示すこともあります。

5.ACTHとコルチゾールを同時に確認する

ICI投与中の低張性低Na血症では、SIADHと判断する前に副腎不全を除外する必要があります。

倦怠感や食欲不振、低Na血症などの所見からACTH・コルチゾール測定を提案するまでの臨床思考については、「irAEの臨床思考①|『ACTH・コルチゾールも追加しませんか?』薬剤師が副腎不全を疑う瞬間」で紹介しています。

原則として早朝のACTHとコルチゾールを同時に測定し、両者の関係から病変部位を考えます。

ACTHコルチゾール考え方
高値低値原発性副腎不全を示唆
低値または不適切正常低値下垂体・視床下部性の続発性副腎不全を示唆

結果が境界域の場合はACTH刺激試験などを検討します。ただし、発症早期の続発性副腎不全では副腎皮質の反応性がまだ保たれ、ACTH刺激試験が正常に見えることがあります。単回の負荷試験結果だけで完全に否定しないことが重要です。

また、ステロイド投与後はACTH・コルチゾールの解釈が難しくなります。ICI投与中には、他のirAEに対するステロイド治療後のHPA系抑制も鑑別に入ります。制吐目的で投与されたデキサメタゾンも確認が必要です。デキサメタゾンは多くのコルチゾール測定系で交差反応が少ない一方、HPA系を抑制するため、投与後のコルチゾール低値は慎重に解釈します。採血時刻、最終投与時刻、製剤、用量、投与期間まで確認しておきます。

なぜ副腎不全はSIADHに見えるのか

コルチゾールには、バソプレシン分泌を抑制する働きがあります。コルチゾールが不足するとバソプレシンが十分に抑制されず、水排泄が低下して希釈性の低Na血症を来します。

このため続発性副腎不全では、低張性低Na血症、尿浸透圧高値、尿中Na高値など、SIADHと似た所見を示すことがあります。SIADHは副腎不全、甲状腺機能低下症、腎機能障害などを除外したうえで診断する病態です。

高K血症がなくても副腎不全は否定できない

ICIによる下垂体障害では、アルドステロン分泌は通常保たれます。アルドステロンは主にレニン・アンジオテンシン系で調節されているためです。

したがって、続発性副腎不全では低Na血症があってもKは正常であることが少なくありません。高K血症は原発性副腎不全を示唆する所見ですが、高K血症がないことは続発性副腎不全の除外根拠にはなりません。

下垂体MRIが正常でも除外できない

ICI関連下垂体炎、とくに抗PD-1抗体に関連した例では、ACTH単独欠損に近い形で発症し、MRIで明らかな下垂体腫大を認めないことがあります。ESEガイドラインでも、正常なMRI所見は下垂体炎を否定しないとされています。

頭痛、視野異常、複数の下垂体ホルモン異常があればMRIは重要ですが、診断の中心は症状とホルモン検査です。

甲状腺機能低下症だけで説明してよいか

ICIでは甲状腺障害も多くみられます。しかし、軽度から中等度の甲状腺機能低下症だけで明らかな低Na血症を説明できることは多くありません。低Na血症を認めたら、甲状腺機能異常があっても副腎不全や他の原因を並行して評価します。

特に中枢性甲状腺機能低下症とACTH分泌低下症が併存している可能性には注意が必要です。未治療の副腎不全が疑われる患者では、レボチロキシン開始により副腎クリーゼを誘発するおそれがあるため、先に副腎機能を評価し、必要ならグルココルチコイドを補充します。

薬剤師が拾いやすい「単独では弱いが、重なると気になる所見」

低Na血症だけでは原因を絞りきれません。薬剤師としては、複数の小さな変化を時系列でつなぐことが重要です。

  • Naが少しずつ低下している
  • 倦怠感や食欲不振が「抗がん薬の影響」として処理されている
  • 好酸球が増加している
  • 血糖が以前より低い
  • 血圧が低下している、降圧薬が減量されている
  • 悪心止めを追加しても症状が改善しない
  • 下痢の程度だけでは体液量減少を説明しにくい
  • ステロイドの減量・中止後に症状が出ている
  • TSHとFT4の関係が中枢性甲状腺機能低下症を疑わせる

例えば「Na低下+食欲不振+好酸球増加」が揃ったときには、ACTH・コルチゾールの測定を提案する十分なきっかけになります。ただし好酸球増加は副腎不全に特異的ではなく、薬剤アレルギー、感染症、他のirAEなども含めて評価します。

副腎不全で好酸球が増加する機序については、「副腎不全ではなぜ好酸球が増えるのか?―irAEに限らない副腎不全と好酸球増多の関係」で詳しく解説しています。

実践用チェックリスト

ICI投与中にNa低下を見つけたら、次を確認します。

  • Na低下の速度と前値
  • 意識障害、けいれん、強い悪心・嘔吐の有無
  • 血圧、脈拍、体重、浮腫、尿量
  • 血糖と血清浸透圧
  • 尿浸透圧と尿中Na濃度
  • ACTHとコルチゾールを同時採血できているか
  • TSHだけでなくFT4も確認したか
  • K、Cr、BUN、尿所見、好酸球の推移
  • 下痢、嘔吐、摂取不良、発熱、疼痛の有無
  • 利尿薬、オピオイド、抗うつ薬、抗てんかん薬、抗がん薬の確認
  • 制吐目的のデキサメタゾンを含むステロイドの投与歴と最終投与時刻

まとめ

ICI投与中の低Na血症では副腎不全を見逃さないことが重要ですが、鑑別は副腎不全だけではありません。

ポイントは、低Na血症を「ICIの副作用名」から考えるのではなく、血清浸透圧、尿浸透圧、尿中Na濃度、体液量、病歴から病態を分解することです。そのうえで、ICI投与中であることを手がかりにACTH分泌低下症、原発性副腎不全、甲状腺障害、腸炎、腎障害などを上乗せして考えます。

特に、SIADHらしい尿所見を見ても、ACTH・コルチゾールを確認するまでは副腎不全を除外できないという点は押さえておきたいところです。

低Na血症、倦怠感、食欲不振、好酸球増加――それぞれ単独では非特異的な所見でも、時間軸でつなげることで、重篤な内分泌irAEの早期発見につながる可能性があります。

参考文献・資料

  1. Schneider BJ, et al. Management of Immune-Related Adverse Events in Patients Treated With Immune Checkpoint Inhibitor Therapy: ASCO Guideline Update. J Clin Oncol. 2021.
  2. Husebye ES, et al. Endocrine-related adverse conditions in patients receiving immune checkpoint inhibition: an ESE clinical practice guideline. Eur J Endocrinol. 2022.
  3. 日本臨床腫瘍学会.がん免疫療法ガイドライン第3版.
  4. Spasovski G, et al. Clinical practice guideline on diagnosis and treatment of hyponatraemia. Eur J Endocrinol. 2014.
  5. 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版におけるSIADHの診断基準(概要)
  6. PMDA.重篤副作用疾患別対応マニュアル(医療関係者向け).
  7. Seethapathy H, et al. Hyponatremia and other electrolyte abnormalities in patients receiving immune checkpoint inhibitors. Nephrol Dial Transplant. 2021.

※本記事は医療従事者向けの情報整理を目的としています。個々の患者の診断・治療は、症状、検査所見、治療歴などを踏まえて担当医療チームで判断してください。

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この記事を書いた人

大学病院勤務18年目の病院薬剤師。

血液腫瘍、がん薬物療法、免疫チェックポイント阻害薬(irAE)、レジメン管理などを中心に、日々の臨床に携わっています。

このブログでは、知識を得るだけでなく、「なぜそう考えるのか」そして「どう臨床で活かすか」を大切にしています。

教科書や添付文書だけでは分かりにくい臨床での思考過程、論文の読み解き方、新薬・レジメンの実践的なポイントなどを、病院薬剤師の視点から分かりやすく発信しています。

【資格】

日本病院薬剤師会 病院薬学認定薬剤師
日本病院薬剤師会 がん薬物療法認定薬剤師
日本臨床腫瘍薬学会 外来がん治療専門薬剤師

患者さんにより良い薬物療法を届けること、そして病院薬剤師同士が学び合える場をつくることを目標に、このブログを運営しています。

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