この記事の要点
副腎不全で好酸球が増えるのは、コルチゾールが普段かけている「好酸球を血液中から減らす作用」が弱くなるためと考えられます。
グルココルチコイドには、好酸球をCXCR4依存的に骨髄へ移動させる作用のほか、好酸球の生存を支える因子を抑え、アポトーシスや除去を促す作用があります。コルチゾールが不足すると、これらの作用が弱まり、末梢血で好酸球が増えて見える可能性があります。
ただし、好酸球増多は副腎不全に特異的な所見ではありません。アレルギー、薬剤、寄生虫感染、血液疾患、悪性腫瘍、ICIそのものによる好酸球増加など、さまざまな原因で起こります。
したがって、私は好酸球増多だけで副腎不全を判断するのではなく、倦怠感、食欲不振、悪心、低Na血症、低血圧などと組み合わせて、副腎不全を鑑別に加えるきっかけとして捉えています。
ICI投与中の好酸球増加を、どう読むか
免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)の投与中に好酸球が増えてきたとき、何を考えるでしょうか。
- ICIによる免疫反応の変化
- 薬剤アレルギーや皮膚障害
- 好酸球性肺炎などの臓器障害
- 感染症や血液疾患
こうした鑑別に加えて、忘れたくないのが副腎不全です。
前回の記事「irAEの臨床思考①|『ACTH・コルチゾールも追加しませんか?』薬剤師が副腎不全を疑う瞬間」では、食欲不振や倦怠感、低Na血症、好酸球増加といった小さな所見をつなぎ、副腎不全を鑑別に挙げるまでの臨床思考を取り上げました。
今回は、その中でも「なぜ副腎不全で好酸球が増えるのか」を掘り下げます。
コルチゾールは血液中の好酸球を減らしている
副腎皮質から分泌されるコルチゾールは、内因性のグルココルチコイドです。
臨床では、プレドニゾロンやデキサメタゾンなどのグルココルチコイドを投与すると、末梢血の好酸球が速やかに減少することが知られています。副腎不全は、その反対側から考えると理解しやすくなります。
つまり、
コルチゾールが普段抑えている好酸球が、コルチゾール低下によって末梢血に現れやすくなる
ということです。
ただし、「コルチゾールが好酸球を減らす=すべて好酸球を死滅させる」という単純な仕組みではありません。
まず重要なのは、好酸球の“再分布”
2020年に『Blood』に報告された研究では、グルココルチコイドによる急速な好酸球減少には、ケモカイン受容体であるCXCR4が関与することが示されました。
グルココルチコイドによって好酸球表面のCXCR4が増えると、末梢血中の好酸球はCXCL12の多い骨髄へ移動します。すなわち、少なくとも投与後早期の好酸球減少は、単なる細胞死ではなく、「血液中から骨髄への移動(ホーミング)」によって説明できるということです。
これを副腎不全側から考えると、コルチゾールが不足した際にはこの再分布作用が弱まり、末梢血中に好酸球が残りやすくなる可能性があります。
なお、これはグルココルチコイド投与時の好酸球減少機序から考えた生理学的な説明です。副腎不全患者の好酸球増加が、すべてCXCR4だけで説明できるという意味ではありません。
生存因子の抑制とアポトーシス促進も関与する
グルココルチコイドは、好酸球の再分布だけでなく、次のような作用も持ちます。
- IL-5など、好酸球の生存を支えるシグナルの産生や作用を抑える
- 好酸球のアポトーシスを促進する
- アポトーシスを起こした好酸球が貪食細胞に除去される過程を促す
したがって、副腎不全でコルチゾールが低下すると、好酸球に対するこれらの抑制が弱くなります。
まとめると、副腎不全に伴う好酸球増加は、
- 好酸球を血液中から骨髄へ戻す作用の低下
- 好酸球の生存シグナルに対する抑制の低下
- アポトーシスや除去を促す作用の低下
が重なって生じると考えると理解しやすいでしょう。
irAEだから増えるのではなく、コルチゾールが不足するから増える
ここは非常に重要です。
ICI投与患者で好酸球が増えると、「免疫が活性化されたため」「好酸球増多自体がirAEなのではないか」と考えたくなることがあります。しかし、副腎不全に伴う好酸球増加はICIに特有の現象ではありません。
コルチゾール欠乏が起きれば、原因を問わず好酸球増加を伴う可能性があります。
| 副腎不全の分類・背景 | 代表的な原因 | 好酸球増加との関係 |
|---|---|---|
| 原発性副腎不全 | 自己免疫性副腎炎、感染、出血、転移など | コルチゾール欠乏により起こり得る |
| 続発性・中枢性副腎不全 | 下垂体疾患、下垂体炎、ACTH単独欠損症など | コルチゾール欠乏により起こり得る |
| 医原性副腎不全 | 長期ステロイド投与後の減量・中止など | HPA系抑制によるコルチゾール不足で起こり得る |
| ICI関連副腎不全 | 下垂体炎、ACTH単独欠損症、まれに原発性副腎不全 | 上記の副腎不全がirAEとして生じる |
特に抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体では、下垂体のirAEとしてACTH単独欠損症を呈することがあります。この場合、アルドステロン分泌は比較的保たれるため、高K血症がなくても副腎不全は否定できません。
「Kが正常だから副腎不全らしくない」とは限らない点に注意が必要です。
また、低Na血症は、アルドステロン低下だけでなく、コルチゾール低下によるADH(バソプレシン)分泌抑制解除(水排泄障害)でも起こるため、続発性でも生じ得ます。ここは押さえておくと良いでしょう。
好酸球は症状より先に動く可能性がある
ICI関連の続発性副腎不全における好酸球の動きを検討した、興味深い報告があります。
Takayasuらは、ICIを開始した525例を後方視的に検討し、19例(3.6%)に下垂体irAEによる続発性副腎不全を認めました。このうち解析対象となった症例では、好酸球数の中央値が次のように推移していました。
| 時点 | 好酸球絶対数の中央値 | 好酸球割合の中央値 |
|---|---|---|
| ICI開始前 | 111/µL | 1.8% |
| 症状出現前 | 319.8/µL | 4.1% |
| 副腎不全診断時 | 398.2/µL | 7.0% |
注目したいのは、症状が現れる前から好酸球が増加していた点です。症状出現前の採血は、症状出現の中央値14日前に行われていました。
同研究では、症状出現前の絶対数198.36/µL、割合5.6%などが予測上のカットオフとして算出されています。しかし、これは単施設の少数例を対象とした後方視的研究から得られた値であり、副腎不全の診断基準として使用できる数値ではありません。
むしろ臨床的には、一般的な「好酸球増多」の基準を超えたかどうかだけでなく、その患者自身のベースラインから増えているかを見ることに意味がありそうです。
割合だけでなく、絶対数と推移を見る
好酸球は、白血球分画の「%」だけで確認されることがあります。しかし、好酸球割合は他の白血球数の影響を受けます。
たとえば、好中球減少があれば、好酸球の絶対数が増えていなくても相対的に割合が高く見えることがあります。化学療法中の患者では、特に注意が必要です。
好酸球絶対数は、概算で次のように求められます。
好酸球絶対数(/µL)=白血球数(/µL)×好酸球割合(%)÷100
私は、次の3点をセットで確認するようにしています。
- 好酸球割合
- 好酸球絶対数
- 前回・治療開始前からの推移
単回の値だけではなく、時系列で見ることが重要です。
なお、ICI併用化学療法では、制吐薬や前投薬として使用されたデキサメタゾンなどのグルココルチコイドも好酸球数に影響します。好酸球の推移を読む際には、ステロイド投与の有無、減量・中止時期、採血との時間関係も併せて確認します。
好酸球増加を見たとき、副腎不全にどうつなげるか
好酸球増加だけでACTHやコルチゾールを測定すべき、とまでは言えません。一方で、次のような所見が十分に説明できないまま重なっている場合は、副腎不全を鑑別に加える価値があります。
- 全身倦怠感、脱力
- 食欲不振、体重減少
- 悪心、嘔吐、腹痛、下痢などの消化器症状
- 低Na血症
- 低血糖
- 血圧低下
- 発熱
- 意欲低下や傾眠などの精神・神経症状
- 好酸球の増加
いずれも、がんの進行、感染症、脱水、他の薬剤有害事象でも起こり得る非特異的な所見です。だからこそ、一つの所見で決めるのではなく、「いま挙げられている原因だけで、この患者の変化を十分に説明できるだろうか」と考えることが大切です。
副腎不全を否定できないと考えた場合、私は、
「食欲不振や倦怠感に加えて、Na低下と好酸球の増加もあります。副腎不全を除外するために、ACTHとコルチゾールを同時に測定できないでしょうか」
と提案します。
ACTHとコルチゾールは、可能であればグルココルチコイド投与前に同時採血します。基礎値として評価する場合は早朝(午前8時前後)の採血が望ましい一方、臨床的に副腎不全を強く疑う場合は、翌朝まで待たず、その時点での同時採血を検討します。副腎クリーゼが疑われる場合は、採血や検査結果を待つために治療を遅らせてはいけません。
好酸球増多=副腎不全ではない
最後に、最も大切な注意点です。
好酸球増多の原因は幅広く、副腎不全はその一つにすぎません。
- アレルギー疾患
- 薬剤性
- 寄生虫感染症
- 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症などの自己免疫疾患
- 好酸球性肺炎などの臓器障害
- 血液疾患
- 悪性腫瘍に伴う変化
- ICIに伴う好酸球増加
- 副腎不全
ICI投与中であれば、「副腎不全による好酸球増加」と「ICIによって生じた別の好酸球関連有害事象」の両方が候補になります。
したがって、好酸球増多は副腎不全の診断所見ではなく、症状や他の検査値をもう一度つなぎ直すためのサインと捉えるのが実践的です。
まとめ
- コルチゾールには、末梢血中の好酸球を減少させる作用がある
- 急性期には、CXCR4を介した好酸球の骨髄への移動が重要と考えられている
- 好酸球の生存因子抑制、アポトーシス促進、除去促進も関与する
- コルチゾールが不足すると、これらの抑制が弱まり、好酸球が増える可能性がある
- この現象はirAEに特有ではなく、原発性・続発性・医原性の副腎不全でも起こり得る
- ICI関連副腎不全では、好酸球が症状出現前から増加する可能性が報告されている
- 好酸球増多単独では診断できないため、絶対数、推移、症状、Na、血糖、血圧などを組み合わせて評価する
好酸球増加は、単独ではとても非特異的な所見です。
それでも、原因のはっきりしない倦怠感や食欲不振、低Na血症などが並んだときには、「副腎不全を見落としていないか」と立ち止まるための、小さくても重要な手がかりになると私は考えています。
参考文献
- Hong SG, et al. Glucocorticoid-induced eosinopenia results from CXCR4-dependent bone marrow migration. Blood. 2020;136:2667-2678. doi:10.1182/blood.2020005161
- Druilhe A, et al. Glucocorticoid-induced apoptosis in human eosinophils: mechanisms of action. Apoptosis. 2003;8:481-495. PubMed
- Takayasu S, et al. Eosinophil counts can be a predictive marker of immune checkpoint inhibitor-induced secondary adrenal insufficiency: a retrospective cohort study. Sci Rep. 2022;12:1294. doi:10.1038/s41598-022-05400-x
- Yanase T, et al. Diagnosis and treatment of adrenal insufficiency including adrenal crisis: a Japan Endocrine Society clinical practice guideline. Endocr J. 2016;63:765-784. doi:10.1507/endocrj.EJ16-0242
- Arima H, et al. Management of immune-related adverse events in endocrine organs induced by immune checkpoint inhibitors: clinical guidelines of the Japan Endocrine Society. Endocr J. 2019;66:581-586. doi:10.1507/endocrj.EJ19-0163
免責事項
本記事は、医療従事者を対象に、副腎不全を疑う際の考え方を共有することを目的としています。個別の患者に対する診断・治療を指示するものではありません。実際の診療では、患者背景、症状、検査値および各種ガイドラインを踏まえて総合的に判断してください。

コメント
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[…] この点は、以前まとめたICI投与中の低Na血症の鑑別や、副腎不全で好酸球が増加する理由ともつながります。倦怠感や食欲低下を「がんや治療の影響」として終わらせず、低Na血症、好酸球増加、低血圧などを組み合わせて評価することが重要です。 […]
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