「ACTH・コルチゾール、測ってみませんか?」という一言が患者さんを救うかもしれない
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の普及に伴い、免疫関連有害事象(irAE)に遭遇する機会は年々増えています。
その中でも、副腎不全は診断が難しいirAEの一つです。
「倦怠感」「食欲低下」「軽度の低ナトリウム血症」。
どれも、がん患者さんでは日常的にみられる症状であり、副腎不全だけに特異的な所見ではありません。
だからこそ、副腎不全は「疑わなければ見つからない」疾患でもあります。
当院で薬剤師が行っていること
当院では、外来化学療法の投与が確定すると、ミキシングルームに抗がん剤投与確定の用紙が出力されます。
私はその用紙を見ると、まずレジメンを確認します。
ICIが含まれているレジメンであれば、カルテを開きます。
もちろん、投与量やレジメンの確認も重要です。
しかし、それだけではありません。
私は、「この患者さんにirAEを疑うサインはないだろうか」という視点でカルテを読み始めます。
看護記録に「最近少し食欲がない」「以前より疲れやすい」といった記載はないか。
採血では好酸球が増えていないか。
Na値は前回より低下していないか。
下痢など、新たな症状は出現していないか。
他のirAEを発症していないか。
これらを一つずつ見るのではなく、患者さん全体を通して評価しています。
好酸球増加は「違和感」の一つ
好酸球増加だけで副腎不全を診断することはできません。
しかし、副腎皮質ホルモン不足では好酸球が増加することが知られています。
そのため、ICI投与中の患者さんで、
「最近少しだるそう」
「食欲が落ちている」
「好酸球が増えてきた」
このような状況が重なれば、副腎不全を鑑別に挙げる理由の一つになります。
重要なのは、好酸球だけを見るのではなく、患者さん全体を見て判断することです。
「副腎不全らしい」から採血するのではない
私が大切にしている考え方があります。
それは、
「副腎不全らしいからACTH・コルチゾールを測定する」のではなく、「副腎不全を除外するためにACTH・コルチゾールを測定する」という考え方です。
もちろん、これら一つひとつだけで副腎不全を診断することはできません。
しかし、ICI治療中という背景に加え、こうした「小さな違和感」がいくつか重なったとき、私は副腎不全を鑑別の一つとして考えます。
副腎不全は、ACTH・コルチゾールを測定しなければ診断に近づくことができません。
一方で、副腎クリーゼが疑われるような状況では、検査結果を待つことよりも迅速な対応が優先されます。そのような場合には、内分泌専門医への相談も含め、速やかに診療につなげることが重要です。
複数の不定愁訴があり、感染症や病勢進行だけでは十分に説明できない場合には、一度ACTH・コルチゾールの追加測定を提案する価値は十分にあると考えています。
薬剤師だからできること
薬剤師は診断を行う職種ではありません。
しかし、「何か違和感がある」と立ち止まることはできます。
そして、その違和感を医師へ伝えることもできます。
「ACTH・コルチゾールも追加しませんか。」
薬剤師ができることは、たったこの一言かもしれません。
しかし、その一言が副腎不全の早期診断につながり、患者さんの転帰を変える可能性があります。
私は、これも薬剤師の重要な役割の一つだと考えています。
おわりに
この記事で伝えたかったのは、副腎不全の診断方法ではありません。
「この患者さん、何かおかしい。」
その小さな違和感に気付き、一度立ち止まる薬剤師の視点です。
「検査値だけを見る」のではなく、「患者さん全体を見る」。
その積み重ねが、ICI投与中の患者さんの副作用を早期に捉え、安全な薬物療法につながるのではないでしょうか。
本記事は、私自身の臨床での考え方や実践をまとめたものです。施設や診療科によって運用は異なるため、最終的な検査・診断・治療方針は、各施設の体制や主治医の判断に従ってください。


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