CINVのオランザピンは5 mg?10 mg?いつ飲む?―夕食後・Day 1・前日投与をエビデンスから考える

本記事は、がん薬物療法に携わる医療従事者を対象としています。実際の投与は、最新の電子添文、ガイドライン、レジメン、患者背景を確認して判断してください。

目次

臨床疑問:オランザピンは5 mg?10 mg?そして、いつ飲む?

CINV(chemotherapy-induced nausea and vomiting:化学療法誘発性悪心・嘔吐)予防でオランザピンを使用するとき、まず迷うのが5 mgと10 mgのどちらを選ぶかです。

そして、もう一つ意外と悩むのが、「いつ飲んでもらうか」ではないでしょうか。

日本の電子添文では、抗悪性腫瘍剤投与に伴う悪心・嘔吐に対して、他の制吐薬との併用でオランザピン5 mgを1日1回投与し、患者の状態により10 mgまで増量できるとされています。投与時期については、「原則として抗悪性腫瘍剤の投与前」と記載されています。また、1サイクルの投与期間は6日間までが目安です。[1]

一方、日本における5 mg投与の重要なエビデンスであるJ-FORCE試験では、オランザピン5 mgをDay 1〜4の夕食後に投与しています。[2]

さらに、2025年に報告された国内のAC療法を対象とした第III相試験では、Day 1はオランザピン5 mgを化学療法終了後5時間以内、帰宅後かつ夕食前に服用し、Day 2〜4は夕食後に投与していました。[3]

では、

  • Day -1の夕方
  • Day 1の抗がん薬投与前
  • Day 1の化学療法終了後〜夕食後

のうち、どのタイミングが最も妥当なのでしょうか。

先に結論を示すと、これらを直接比較して、最適な投与時刻を証明した強いエビデンスはありません。

したがって、オランザピンの投与時刻は制吐効果だけでなく、傾眠、ふらつき、転倒、院内移動、帰宅方法まで含めて決める必要があります。

外来化学療法では、「悪心・嘔吐を制御すること」と「安全に帰宅してもらうこと」の両方が重要です。

結論の要点

  • 日本では、CINV予防のオランザピンはまず5 mgを基本に考える
  • 2.5 mg錠という製剤規格はあるが、CINVに対する2.5 mg投与は承認された用法・用量の範囲外であり、5 mgより制吐力が弱い可能性もある
  • 10 mgは電子添文上の選択肢だが、ルーチンに10 mgを選ぶという意味ではない
  • J-FORCEではDay 1〜4夕食後の5 mg投与で有効性が示されている
  • 国内AC第III相試験では、Day 1の化学療法終了後に自宅で服用しても有効性が示された
  • Day -1開始には薬物動態上の合理性と臨床試験での使用経験があるが、Day 1開始に対する優越性は確立していない
  • Day 1治療前、治療後、夕食後、Day -1を直接比較した試験は乏しく、一つの「正解」は作れない
  • 投与時刻は、患者のCINVリスクと、傾眠・転倒・移動時の安全性リスクを比較して決める

CINV予防では5 mgと10 mgのどちらを選ぶか

海外では10 mgのエビデンスが先行した

オランザピンを含む4剤併用療法の確立には、10 mgをDay 1〜4に投与した海外試験が大きく寄与しました。Navariらの第III相試験では、5-HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬、デキサメタゾンにオランザピン10 mgを追加することで、プラセボ追加群より急性期、遅発期、全期間の悪心・嘔吐制御が改善しました。一方、オランザピン群では鎮静も多く認められました。[4]

MASCC/ESMO 2023 updateは、オランザピンを高度催吐性化学療法に対する4剤併用療法の固定的な構成薬として推奨しています。ただし、5 mgと10 mgの直接比較試験は少なく、十分な検出力を備えた試験が乏しいため、両用量の有効性と安全性の差を確定できないとも述べています。[5]

ASCOガイドラインでは、成人のオランザピン用量として5 mgも選択可能とされています。[6]

日本人を対象とした5 mg対10 mgの第II相試験

日本人のシスプラチン投与患者153例を対象としたランダム化二重盲検第II相用量設定試験では、標準3剤併用療法にオランザピン5 mgまたは10 mgを追加しました。[7]

主な結果は以下のとおりです。

評価項目5 mg群10 mg群
遅発期の完全奏効率(CR)85.7%77.6%
傾眠45.5%53.3%

両用量とも、事前に設定された遅発期CR率の基準を上回りました。そのうえで、CR率と傾眠のバランスから、次の第III相試験に進む推奨用量として5 mgが選択されました。

ただし、この試験は「5 mgは10 mgに非劣性である」と証明するための試験ではありません。 数字だけを見て「5 mgの方が10 mgより効く」と結論づけることもできません。

ここで言えるのは、日本人のCINV予防では5 mgでも十分な有効性が期待でき、10 mgより使いやすい可能性が示されたということです。

J-FORCEが5 mgの位置づけを確かなものにした

J-FORCEは、初回のシスプラチン50 mg/m²以上を含む治療を受ける患者を対象とした、国内多施設共同、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照第III相試験です。[2]

全例がアプレピタントまたはホスアプレピタント、パロノセトロン、デキサメタゾンを使用し、オランザピン群では5 mgをDay 1〜4の夕食後に追加しました。

主要評価項目である遅発期CR率は、オランザピン群79%、プラセボ群66%で、5 mg追加群が有意に良好でした。急性期と全期間のCRも改善しています。

一方、治療関連の傾眠は、オランザピン群でGrade 1が39%、Grade 2が4%、Grade 3が1例でした。患者報告では、Day 1の強い日中の眠気がオランザピン群で多く認められています。

つまり、5 mgであっても傾眠は無視できません。しかし、5 mgを夕食後に投与することで、実用的な制吐効果と安全性のバランスが示されたことがJ-FORCEの重要な意味です。

日本では「まず5 mg」が基本。ただし10 mgを否定するわけではない

日本の電子添文は5 mgを通常用量とし、患者の状態により10 mgまで増量可能としています。日本癌治療学会『制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版』でも、高度催吐性リスクに対するオランザピン5 mgを含む4剤併用療法が重視されています。[8]

そのため、日本の実臨床では、まず5 mgを基本に考えるのが自然です。

ただし、5 mgでCINVを制御できなかったからといって、機械的に10 mgへ増量するとは限りません。増量前に、少なくとも以下を見直します。

  • レジメンの催吐性リスクに合った標準制吐療法になっていたか
  • 5-HT3受容体拮抗薬、NK1受容体拮抗薬、デキサメタゾンの選択・用量・投与期間は適切か
  • 処方どおりに服用できていたか
  • 予測性悪心・嘔吐ではないか
  • breakthrough CINVに対するレスキューは適切だったか
  • 便秘、消化管閉塞、脳転移、電解質異常など、CINV以外の悪心原因はないか
  • 患者固有のCINVリスクが高くないか
  • オランザピンの投与時刻を変更する余地があるか
  • 5 mg投与時の傾眠やふらつきは許容できていたか

これらを確認したうえで、CINV制御不良が続き、かつ鎮静リスクを許容できる患者では、10 mgを検討する余地があります。

2.5 mgという選択肢はあるか

傾眠や転倒が心配な患者では、「5 mgよりさらに減らして2.5 mgにできないか」と考えることがあります。

日本にはオランザピン2.5 mg錠・OD錠の製剤規格があり、2.5 mgを処方すること自体は製剤上可能です。しかし、CINVに対する電子添文上の用法・用量は「通常5 mgを1日1回、患者の状態により適宜増量し、1日10 mgまで」です。CINVに2.5 mgを用いることは、承認された用法・用量の範囲外となります。 製剤規格が存在することと、CINVの承認用量であることは分けて考える必要があります。[1]

2024年に報告されたインドの単施設、非盲検、ランダム化第III相試験では、高度催吐性化学療法を受ける固形癌患者に対し、標準3剤併用療法へオランザピン2.5 mgまたは10 mgを追加しました。その結果、2.5 mgは10 mgに対して制吐効果の非劣性を示し、日中の傾眠は2.5 mg群で少なく認められました。[11]

一方、この試験は2.5 mgと5 mgを比較した試験ではありません。 単施設・非盲検試験であり、日本の実臨床へそのまま一般化できるかにも注意が必要です。

日本の全国入院データベースを用いた2024年の研究では、高度催吐性化学療法を受けた肺癌患者について、オランザピン2.5 mgと5 mgを比較しています。傾向スコアで調整した解析では、追加の制吐薬を必要とした患者は2.5 mg群36%、5 mg群31%で、2.5 mg群の方が有意に多い結果でした。[12]

この研究は後ろ向き観察研究であり、悪心・嘔吐そのものではなく「追加制吐薬の使用」を評価した点や、2.5 mgが選ばれた患者には元々虚弱性や鎮静リスクが高かった可能性が残ります。それでも、2.5 mgでは5 mgより制吐力が弱くなる可能性を示す国内データとして無視はできません。

したがって、2.5 mgは現時点でルーチンの開始用量とは位置づけにくく、次のように整理するのが妥当です。

  • 日本の電子添文上の通常用量は5 mgであり、まず5 mgを基本とする
  • 2.5 mg錠・OD錠は存在するが、CINVに対する2.5 mg投与は承認された用法・用量の範囲外である
  • 2.5 mgは、5 mgでは傾眠が強かった患者や、鎮静・転倒リスクが特に高い患者で検討する余地がある
  • 減量すれば制吐効果が低下する可能性があるため、レスキュー薬と評価計画をセットにする
  • 安全性リスクが高い場合は、2.5 mgへ減量して必ず使用するのではなく、オランザピンを使用しない選択肢も含めて考える

つまり、2.5 mgは「5 mgの代わりとなる新たな標準用量」ではなく、有効性と鎮静リスクの間で個別に検討する低用量です。

J-FORCEの「夕食後」は何を意味するか

J-FORCEでは、オランザピン5 mgをDay 1〜4の夕食後に投与して、遅発期だけでなく急性期と全期間のCRも改善しました。[2]

したがって、少なくとも、

抗がん薬投与前に服用しなければ、オランザピンの制吐効果は得られない

とは考えにくい結果です。

ただし、J-FORCEはDay 1治療前投与とDay 1夕食後投与を比較した試験ではありません。 夕食後投与が治療前投与より優れていると証明したわけでもありません。

また、J-FORCEはシスプラチン治療のため入院した患者を対象とし、76歳以上は除外されました。外来化学療法で高齢者が公共交通機関を使って帰宅する場面へ、そのまま一般化することには注意が必要です。

2025年の国内AC試験は「治療後に飲む」選択肢を補強した

2025年、乳癌に対して外来でアントラサイクリン+シクロホスファミド(AC)療法を受ける女性500例を対象とした、国内多施設共同、ランダム化、二重盲検、プラセボ対照第III相試験が報告されました。[3]

オランザピン5 mgまたはプラセボを標準3剤併用療法に追加し、Day 1は化学療法終了後5時間以内、帰宅後かつ夕食前に服用、Day 2〜4は夕食後に服用しました。

全期間のCR率は、オランザピン群58.1%、プラセボ群35.5%で、オランザピン群が有意に良好でした。オランザピンとの関連が疑われるGrade 3〜4の傾眠は、オランザピン群で4例(2%)、プラセボ群では0例でした。

この試験で重要なのは、Day 1のオランザピンを治療前に投与しなくても、急性期を含むCINV予防効果が得られたことです。

しかも、投与時刻は単なる服薬上の都合ではなく、病院内や移動中の鎮静リスクを減らす意図で設計されていました。

なお、Day 1は「夕食後」ではなく「帰宅後かつ夕食前」です。J-FORCEと投与時刻は同一ではありません。この2試験から言えるのは、Day 1の治療前投与だけが有効なスケジュールではないということまでです。

電子添文の「原則として抗悪性腫瘍剤の投与前」をどう考えるか

日本の電子添文には、現在も「原則として抗悪性腫瘍剤の投与前」と明記されています。[1]

したがって、電子添文に沿ってDay 1治療前に投与することには明確な根拠があります。

一方で、J-FORCEのDay 1夕食後投与や、国内AC試験の化学療法終了後投与でも有効性が示されています。これは「電子添文と臨床試験が矛盾している」というより、承認上の原則と、有効性が確認された臨床試験スケジュールには幅があると捉えるのがよいでしょう。

電子添文の「原則として」は重要です。しかし、患者の移動や安全性を無視して、全例で治療前投与を機械的に選ぶ必要がある、とまでは読めません。

Day -1から始める意味はあるか

Day -1の夕方から投与すれば、Day 1の抗がん薬開始時点ですでにオランザピンへの曝露が得られます。

実際、日本人44例を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照試験では、オランザピン5 mgを化学療法前日からDay 5まで投与し、標準制吐療法への追加によって急性期・遅発期のtotal controlとQOLが改善しました。[9]

しかし、この試験は小規模であり、Day -1開始とDay 1開始を直接比較したものではありません。 Day -1開始が、J-FORCEのDay 1夕食後や、治療前投与より優れていることを示したわけではありません。

したがって、Day -1投与は、

  • 薬物動態的な合理性がある
  • 実際に前日から投与した臨床試験が存在する
  • CINVリスクが非常に高く、安全性上の懸念が小さい患者では選択肢となり得る

と整理するのが妥当です。

「CINVハイリスクなら前日投与すべき」とまでは言えません。

薬物動態から投与時刻を考える

オランザピンの最高血中濃度到達時間(Tmax)はおおむね3〜5時間、健康成人における平均消失半減期は約33時間です。食事による吸収への明らかな影響は認められていません。[1,2]

この薬物動態から、次のように考えられます。

Day -1投与

前日の夕方に服用すれば、その夜に血中濃度がピークに近づき、半減期が長いためDay 1にも曝露が残ります。抗がん薬開始前から受容体遮断作用を期待する、という発想には合理性があります。

Day 1治療前投与

電子添文に沿った投与です。例えば点滴開始30分〜1時間前に服用すると、Tmaxからみた最高血中濃度の時間帯は、抗がん薬投与中から会計・院内移動・帰宅移動の時間帯に重なる可能性があります。急性期の早い段階から作用を期待しやすい一方、外来では鎮静が問題となり得る場所と時間を具体的に想定する必要があります。

Day 1治療後〜夕食後投与

服用前の時間帯にはオランザピンの曝露がありません。しかし、J-FORCEと国内AC試験では、治療後から開始しても急性期を含むCINV制御が改善しました。帰宅後〜夕食後に服用すれば、Tmaxからみた最高血中濃度の時間帯を、自宅で過ごす時間帯や就寝時間帯へ移せる可能性があります。半減期が長いため、Day 2以降の遅発期にも曝露が持続します。

ただし、Tmaxは最高血中濃度に達する時間であり、傾眠が最も強くなる時刻と同義ではありません。 帰宅後投与によって移動中の傾眠や転倒が減ることを、PKデータだけで証明できるわけでもありません。オランザピンは、数時間の投与時刻の違いだけで単純に有効・無効が分かれる薬ではなさそうですが、PKだけから最適な投与時刻を決めることはできません。血中濃度とCINV予防効果の明確な目標値も確立していません。

傾眠は「副作用」ではなく、投与時刻を決める主要因

オランザピンの傾眠は、単に副作用一覧で確認して終わる項目ではありません。投与時刻を決める主要因です。

J-FORCEでは、夕食後投与によって血中濃度のピークが睡眠中に重なることが、日中の眠気を軽減した可能性として考察されています。[2]

一方、5 mgであってもDay 1の強い日中の眠気や、まれながらGrade 3の傾眠は報告されています。CINV目的では数日間の短期投与ですが、初回投与から安全性への配慮が必要です。

外来治療では、以下まで具体的に確認します。

  • 化学療法室内での離床やトイレ移動
  • 会計、薬局、院内移動
  • 公共交通機関での帰宅
  • 自動車や自転車の運転
  • 帰宅後の入浴や階段昇降
  • 夜間のトイレ移動と転倒
  • ベンゾジアゼピン系薬、睡眠薬、オピオイドなど中枢神経抑制薬の併用

なお、電子添文では、傾眠や注意力・集中力・反射運動能力の低下が起こることがあるため、本剤投与中は自動車の運転や危険を伴う機械操作に従事させないよう注意するとされています。[1] 「眠くなければ運転してよい」と自己判断させない説明が必要です。

夜間の傾眠は、ステロイドによる不眠がある患者では結果的に好都合となることもあります。しかし、オランザピンを「睡眠薬代わり」として積極的に位置づけるのは適切ではありません。

また、高齢者では半減期が延長する可能性があります。投与時刻を夕食後にずらせば安全になるとは限らず、オランザピンを使用するか、用量をさらに慎重にするかから検討すべき患者もいます。

では、どの患者でどのタイミングを考えるか

以下はガイドライン上の絶対的な推奨ではなく、臨床試験、薬物動態、安全性を踏まえた実臨床での考え方です。

患者・治療の状況投与タイミングの考え方注意点
標準的な患者Day 1〜4夕食後は十分合理的J-FORCEに準じる。ただしJ-FORCEは入院・75歳以下のシスプラチン患者が中心
外来AC療法Day 1は治療終了後、帰宅後の服用も合理的国内第III相では終了後5時間以内・夕食前、Day 2〜4は夕食後
CINVリスクが特に高く、鎮静リスクが低いDay 1治療前を検討する余地あり電子添文に沿うが、患者因子ごとに治療前投与の優越性を示した試験はない
外来で鎮静、転倒、帰宅時の安全性が問題治療後の帰宅後〜夕食後を検討服用前の時間帯に悪心が出る可能性と、レスキュー計画も確認
CINVリスクが非常に高く、安全性上の問題が少ないDay -1開始も選択肢薬物動態上の合理性はあるが、Day 1開始に対する優越性は未確立
高齢、ふらつき、転倒歴、PS低下、中枢神経抑制薬併用投与時刻だけでなく、使用の可否と用量から慎重に判断2.5 mgも選択肢となり得るが、制吐力低下の可能性があり、ルーチン用量ではない

Day 1治療前投与を考えやすい場面

CINV側のリスクが高く、オランザピンによる鎮静・転倒リスクが低い患者では、Day 1治療前投与を検討する余地があります。

CINVリスクを考える材料には、以下があります。[10]

  • 若年
  • 女性
  • 乗り物酔い歴
  • 妊娠時の悪心・嘔吐歴
  • 飲酒習慣が乏しい
  • 不安が強い
  • 過去の化学療法でCINV制御不良
  • 高度催吐性レジメン

ただし、個々の因子について「該当するから治療前に投与すべき」と示したエビデンスはありません。J-FORCEの二次解析では、オランザピン5 mgの上乗せ効果は、検討されたCINVリスク因子の有無にかかわらず概ね認められました。[10]

患者因子は、投与時刻を自動的に決めるルールではなく、CINV側のリスクを見積もる材料です。

治療後〜夕食後投与を考えやすい場面

以下の患者では、Day 1治療前に服用させるよりも、帰宅後〜夕食後へずらす合理性があります。

  • 高齢
  • 転倒歴やふらつきがある
  • PSが低い
  • ベンゾジアゼピン系薬、睡眠薬、鎮静性抗ヒスタミン薬を併用している
  • オピオイドを使用している
  • 化学療法後に公共交通機関で帰宅する
  • 自動車や自転車を運転する可能性がある
  • 初回投与で傾眠の程度が予測しにくい

「化学療法室で飲ませれば服用を確認できる」という運用上の利点だけで治療前投与を選ぶのではなく、服用後に患者がどのように帰宅し、夜を過ごすかまで考えます。

処方監査では何を確認するか

オランザピンを含むCINV予防処方を監査するときは、用量と投与時刻を別々に見ない方がよいでしょう。

処方監査チェックリスト

  • レジメンに合った標準制吐療法と投与日数か
  • 前サイクルの急性期・遅発期CINVは制御できていたか
  • 5 mgを基本とし、2.5 mg・10 mgを選ぶ理由が明確か
  • 傾眠、ふらつき、転倒歴、PS、認知機能を確認したか
  • 睡眠薬、抗不安薬、オピオイドなどの併用を確認したか
  • Day 1の服用場所・時刻と、服用後の帰宅手段を確認したか
  • 自動車・自転車の運転を避けるよう説明したか
  • レスキュー薬と、次回評価する項目が決まっているか

1.制吐療法全体を確認する

  • レジメンの催吐性リスク
  • 5-HT3受容体拮抗薬
  • NK1受容体拮抗薬
  • デキサメタゾンの用量と投与日数
  • オランザピンの用量と投与日数
  • レスキュー薬

2.CINVリスクを確認する

  • 年齢、性別
  • 乗り物酔い、妊娠時悪阻、過去のCINV
  • 飲酒習慣
  • 予測性悪心の可能性
  • 前サイクルの急性期・遅発期それぞれの制御状況

3.鎮静リスクを確認する

  • 転倒歴、ふらつき、PS
  • 高齢、認知機能
  • 睡眠薬、抗不安薬、オピオイドなどの併用
  • 初回投与か、過去の忍容性が確認できているか
  • 帰宅手段と運転の有無
  • 独居か、帰宅後に見守りがあるか

4.患者が実際に服用できる時刻を決める

「夕食後」という処方だけでは、化学療法終了から何時間後になるのか、帰宅前なのか帰宅後なのかが分かりません。

必要であれば、

  • Day 1は帰宅後に服用
  • Day 2〜4は夕食後
  • 投与期間中は自動車運転や危険を伴う機械操作を行わない
  • 強い眠気やふらつきがあれば次回治療前に伝える

まで具体的に説明します。

まとめ:悪心・嘔吐を制御することと、安全に帰宅してもらうこと

CINV予防におけるオランザピンは、日本ではまず5 mgを基本に考えやすい用量です。電子添文上は10 mgまで増量できますが、10 mgをルーチンに選ぶという意味ではありません。

2.5 mgは、鎮静・転倒リスクが特に高い患者や、5 mgで傾眠が問題となった患者では検討する余地があります。2.5 mg錠・OD錠の製剤規格は存在しますが、CINVに対する2.5 mg投与は承認された用法・用量の範囲外です。また、国内データでは5 mgより追加制吐薬の使用が多かったことから、標準用量として一律に選ぶ段階ではありません。

投与タイミングについては、Day 1治療前、Day 1治療後〜夕食後、Day -1のいずれか一つが明確に優れているとする根拠は限定的です。

J-FORCEではDay 1〜4夕食後投与、2025年の国内AC第III相試験ではDay 1の化学療法終了後・帰宅後投与で、急性期を含むCINV予防効果が示されました。したがって、少なくとも「抗がん薬投与前でなければ効かない」と考える必要はありません。

一方、CINVリスクが非常に高く、傾眠・転倒などの安全性リスクが低い患者では、電子添文に沿ったDay 1治療前投与、場合によってはDay -1からの投与を検討する余地があります。ただし、前日投与の優越性は確立していません。

オランザピンの投与時刻を決めるときは、CINVをどこまで強く抑えたいかだけでなく、オランザピンを飲んだ患者が、その後どこで、どのように過ごすかまで考える必要があります。

「悪心・嘔吐を制御すること」と「安全に帰宅してもらうこと」の両方から、オランザピンの投与時刻を考える。

これが、外来化学療法における実践的な落としどころだと考えます。

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参考文献

  1. ジプレキサ® (オランザピン)電子添文(PMDA)
  2. Hashimoto H, et al. Olanzapine 5 mg plus standard antiemetic therapy for the prevention of chemotherapy-induced nausea and vomiting (J-FORCE): a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2020;21(2):242-249. doi:10.1016/S1470-2045(19)30678-3.
  3. Saito M, et al. Overall efficacy and safety of olanzapine 5 mg added to triplet antiemetics for an anthracycline-containing regimen in patients with breast cancer: a phase 3, double-blind, randomised, placebo-controlled trial. Lancet Oncol. 2025;26(7):960-970. doi:10.1016/S1470-2045(25)00233-5.
  4. Navari RM, et al. Olanzapine for the Prevention of Chemotherapy-Induced Nausea and Vomiting. N Engl J Med. 2016;375(2):134-142. doi:10.1056/NEJMoa1515725.
  5. Herrstedt J, et al. 2023 updated MASCC/ESMO consensus recommendations: prevention of nausea and vomiting following high-emetic-risk antineoplastic agents. Support Care Cancer. 2024;32:47. doi:10.1007/s00520-023-08221-4.
  6. Hesketh PJ, et al. Antiemetics: ASCO Guideline Update. J Clin Oncol. 2020;38(24):2782-2797. doi:10.1200/JCO.20.01296.
  7. Yanai T, et al. A double-blind randomized phase II dose-finding study of olanzapine 10 mg or 5 mg for the prophylaxis of emesis induced by highly emetogenic cisplatin-based chemotherapy. Int J Clin Oncol. 2018;23(2):382-388. doi:10.1007/s10147-017-1200-4.
  8. 日本癌治療学会編.制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版.金原出版;2023.Mindsガイドラインライブラリ掲載情報
  9. Mizukami N, et al. Olanzapine for the prevention of chemotherapy-induced nausea and vomiting in patients receiving highly or moderately emetogenic chemotherapy: a randomized, double-blind, placebo-controlled study. J Pain Symptom Manage. 2014;47(3):542-550. doi:10.1016/j.jpainsymman.2013.05.003.
  10. Abe M, et al. Efficacy of Olanzapine in Addition to Standard Triplet Antiemetic Therapy for Cisplatin-Based Chemotherapy: A Secondary Analysis of the J-FORCE Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2023;6(5):e2310894. doi:10.1001/jamanetworkopen.2023.10894.
  11. Bajpai J, et al. Low-dose versus standard-dose olanzapine with triple antiemetic therapy for prevention of highly emetogenic chemotherapy-induced nausea and vomiting in patients with solid tumours: a single-centre, open-label, non-inferiority, randomised, controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2024;25(2):246-254. doi:10.1016/S1470-2045(23)00628-9.
  12. Suzuki-Chiba H, et al. Comparison of olanzapine 2.5 mg and 5 mg in the prevention of chemotherapy-induced nausea and vomiting: a Japanese nationwide database study. Int J Clin Oncol. 2024;29(11):1762-1773. doi:10.1007/s10147-024-02603-2.
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この記事を書いた人

大学病院勤務18年目の病院薬剤師。

血液腫瘍、がん薬物療法、免疫チェックポイント阻害薬(irAE)、レジメン管理などを中心に、日々の臨床に携わっています。

このブログでは、知識を得るだけでなく、「なぜそう考えるのか」そして「どう臨床で活かすか」を大切にしています。

教科書や添付文書だけでは分かりにくい臨床での思考過程、論文の読み解き方、新薬・レジメンの実践的なポイントなどを、病院薬剤師の視点から分かりやすく発信しています。

【資格】

日本病院薬剤師会 病院薬学認定薬剤師
日本病院薬剤師会 がん薬物療法認定薬剤師
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