ICI投与中、TSH低値なら抗甲状腺薬?―破壊性甲状腺炎とバセドウ病の見分け方

ICI(免疫チェックポイント阻害薬)投与中の採血で、TSH低値を認めた。

このとき、「甲状腺機能亢進症だから、チアマゾールを開始しよう」と考えてよいのでしょうか。

結論からいえば、TSH低値だけでは抗甲状腺薬の適応は判断できません。まずFT4・FT3を確認し、甲状腺中毒症であれば、その原因が「ホルモンを過剰に作っている」のか、「壊れた甲状腺からホルモンが漏れ出している」のかを見分ける必要があります。

ICI投与後の甲状腺中毒症では、バセドウ病よりも破壊性甲状腺炎が多く、後者にはチアマゾールなどの抗甲状腺薬は基本的に効きません。

この記事では、ICI投与中にTSH低値を認めたときの検査値の読み方と、破壊性甲状腺炎・バセドウ病の鑑別、薬剤師が処方提案前に確認したいポイントを整理します。

この記事の要点

  • TSH低値だけでは、甲状腺中毒症ともバセドウ病とも判断できない
  • ICIによる甲状腺中毒症は、破壊性甲状腺炎が多い
  • 破壊性甲状腺炎には、抗甲状腺薬は基本的に無効
  • FT3/FT4比は補助所見であり、単独で診断しない
  • 症状にはβ遮断薬を検討し、数週間後の機能低下症への移行を追う
目次

まず押さえたい:「甲状腺中毒症」と「甲状腺機能亢進症」は同じではない

この2つの言葉は混同されがちですが、意味は異なります。

  • 甲状腺中毒症:血中の甲状腺ホルモンが過剰な状態
  • 甲状腺機能亢進症:甲状腺がホルモンを過剰に産生している状態

バセドウ病は、甲状腺が刺激されてホルモンを過剰に作るため、両方に該当します。

一方、破壊性甲状腺炎では、甲状腺の炎症・破壊によって、すでに作られていたホルモンが血中へ漏れ出します。血中ホルモンは増えていても、甲状腺での新たな合成が亢進しているわけではありません。

抗甲状腺薬は甲状腺ホルモンの「合成」を抑える薬です。そのため、漏出が主体の破壊性甲状腺炎には、原理的にも効果が期待できません。

TSH低値を見たら、まずFT4・FT3を確認する

TSH低値だけを見て、甲状腺中毒症と判断してはいけません。FT4・FT3との組み合わせで考えます。

TSHFT4・FT3主に考える状態
低値FT4またはFT3高値甲状腺中毒症。破壊性甲状腺炎、バセドウ病などを鑑別
低値FT4・FT3正常潜在性甲状腺中毒症、回復過程、薬剤影響など。推移を確認
低値〜正常FT4低値中枢性甲状腺機能低下症を疑う。下垂体障害・副腎不全の評価が必要

ICI投与中は、下垂体炎やACTH単独欠損症による中枢性甲状腺機能低下症も鑑別に入ります。TSHが低いという一点だけで、甲状腺ホルモンが多い方向に決めつけないことが重要です。

また、甲状腺中毒症から回復する過程では、FT4・FT3が低下してもTSH抑制がしばらく残ることがあります。短期間の変化を追う際も、TSH単独ではなくFT4・FT3を併せて確認します。

【関連記事】ICI投与中、TSHが正常なら大丈夫?―FT4も確認すべき理由

ICIでは、バセドウ病より破壊性甲状腺炎が多い

ICIによる甲状腺障害では、投与開始後に一過性の甲状腺中毒症を呈し、その後に甲状腺機能低下症へ移行する二相性の経過が典型的です。この甲状腺中毒症の多くは、ホルモン合成の亢進ではなく、甲状腺組織の破壊によるものです。

一方、ICIを契機としたバセドウ病も報告されていますが、頻度は高くありません。もともとバセドウ病がある患者で、ICI開始後に病勢が変化する可能性もあります。

したがって、ICI投与中という背景だけで破壊性甲状腺炎と断定することもできませんが、少なくとも「TSH低値=バセドウ病=チアマゾール」とは考えないことが出発点になります。

破壊性甲状腺炎とバセドウ病をどう見分けるか

鑑別は、単一の検査ではなく、発症時期、症状、ホルモン値の推移、抗体、画像所見を組み合わせて行います。

所見破壊性甲状腺炎を支持バセドウ病を支持
経過一過性で、数週間後に改善または機能低下へ移行甲状腺中毒症が持続しやすい
FT3・FT4FT4優位になりやすいFT3優位になりやすい
FT3/FT4比低値が補助所見高値が補助所見
TRAb通常陰性陽性なら強く支持
甲状腺血流一般に低下または増加に乏しいびまん性に増加
シンチグラフィ/摂取率低下びまん性に増加
治療経過観察、必要時β遮断薬抗甲状腺薬など

FT3/FT4比は「補助所見」として使う

バセドウ病では甲状腺ホルモンの合成・分泌が亢進し、FT3優位になりやすい一方、破壊性甲状腺炎では貯蔵されていたホルモンの漏出が主体となり、相対的にFT4優位になりやすいとされます。そのため、FT3/FT4比が高ければバセドウ病、低ければ破壊性甲状腺炎を支持します。

ただし、FT3/FT4比のカットオフ値は研究ごとに異なり、測定単位や測定系にも依存します。さらに、がん患者では全身状態不良、低栄養、重症疾患、ステロイド投与などによってT4からT3への変換が低下し、FT3が相対的に低くなることがあります。

したがって、FT3/FT4比だけで破壊性甲状腺炎と確定しないことが大切です。比は、TRAb、血流、経時変化などと合わせて用いる補助所見と位置づけます。

TRAbはバセドウ病を疑うときに確認する

眼球突出などの眼症状、びまん性甲状腺腫、FT3優位の上昇、甲状腺中毒症の遷延があれば、TRAb測定を検討します。

TRAb陽性はバセドウ病を強く支持します。一方、ICI関連のバセドウ病ではTRAb陰性例も報告されており、陰性だけでは完全に除外できません。臨床像から疑わしい場合は、甲状腺血流やシンチグラフィを組み合わせます。

甲状腺超音波では血流を見る

カラードプラ超音波では、バセドウ病で甲状腺血流のびまん性増加を認めやすく、破壊性甲状腺炎では一般に血流増加に乏しいことが鑑別の助けになります。ただし、ICI関連甲状腺炎でも血流増加を認めた報告があり、血流所見だけで決めることはできません。

侵襲が少なく、比較的実施しやすい点が利点です。ただし、超音波所見だけで確定するのではなく、抗体や臨床経過と合わせて判断します。

シンチグラフィはホルモン合成の状態を反映する

バセドウ病では甲状腺の取り込みが増加し、破壊性甲状腺炎では低下します。病態を直接的に分けやすい検査ですが、実施可能な施設やタイミングは限られます。

また、がん患者では造影CTを受ける機会が多く、ヨード造影剤の影響で放射性ヨードの取り込みが数週間低下することがあります。直近の造影検査歴を確認せずに「取り込み低下=破壊性」と判断すると、解釈を誤る可能性があります。

破壊性甲状腺炎にチアマゾールは基本的に効かない

破壊性甲状腺炎は、甲状腺ホルモンの合成亢進ではなく、甲状腺からの漏出が主体です。そのため、チアマゾールなどの抗甲状腺薬を開始しても、病態の中心には作用しません。

症状が軽ければ、経過観察のみとなることもあります。動悸、頻脈、振戦などがあれば、β遮断薬による対症療法を検討します。喘息、徐脈、低血圧、心不全などがある場合は、薬剤選択と投与可否に注意が必要です。

なお、破壊性甲状腺炎に対する高用量グルココルチコイドもルーチンには推奨されません。ESEガイドラインでは、重症の甲状腺中毒症や重症甲状腺眼症などを例外として、高用量グルココルチコイドを使用しないことを推奨しています。

ICI関連の軽症甲状腺中毒症では、TSH低値だけを理由にICIを中止するとは限りません。ICIの継続・休薬は、症状や重症度、全身状態を含めて判断します。

一方、強い頻脈、発熱、意識変容、心不全、消化器症状などを伴う場合は、甲状腺クリーゼを含む重症病態を考え、速やかな評価が必要です。

バセドウ病を疑うのはどのようなときか

次のような場合は、破壊性甲状腺炎だけで説明せず、バセドウ病の精査を考えます。ASCOガイドラインでは、甲状腺中毒症が6週間を超えて持続する場合、内分泌専門医への相談と追加評価が示されています。

  • 甲状腺中毒症が6週間を超えて持続する
  • FT3優位の上昇が目立つ
  • 眼症状やびまん性甲状腺腫を認める
  • TRAbが陽性
  • 甲状腺血流が増加している
  • シンチグラフィで取り込み増加を認める
  • ICI開始前からバセドウ病の既往がある

バセドウ病と判断された場合は、内分泌専門医と連携し、抗甲状腺薬などの治療を検討します。

「6週間」は、そこまで待たなければ精査できないという意味ではありません。眼症状や著明なFT3上昇など、早い段階からバセドウ病を疑う所見があれば、その時点で評価します。

数週間後の甲状腺機能低下症を見逃さない

破壊性甲状腺炎では、甲状腺中毒症が自然に軽快したように見えた後、甲状腺機能低下症へ移行することがあります。

そのため、「抗甲状腺薬が不要だった」でフォローを終了してはいけません。甲状腺中毒症と診断した後は、TSH・FT4(必要に応じてFT3)をおおむね2〜3週間ごとに確認し、機能低下への移行を追います。これは、通常のスクリーニングとして行う4〜6週間ごとの測定よりも短い間隔です。

特に注意したいのは、TSHがまだ抑制されている一方でFT4が低下してくる場面です。単に甲状腺中毒症が続いていると判断せず、回復過程や中枢性甲状腺機能低下症も含めて評価します。

レボチロキシン開始を検討する際に、副腎不全が疑われる場合は、甲状腺ホルモン補充を先行させないことも重要です。

薬剤師が「チアマゾール開始でよいですか?」と聞かれたら

筆者なら、すぐに可否を答えるのではなく、次の順番で確認します。

  1. TSHだけでなくFT4・FT3はどうか
  2. ICI開始前からの推移はどうか
  3. 動悸、頻脈、振戦、発汗、体重減少などの症状はあるか
  4. FT3優位か、FT4優位か
  5. 眼症状、甲状腺腫、バセドウ病の既往はないか
  6. TRAb、甲状腺血流、シンチグラフィが必要な状況か
  7. 最近、ヨード造影剤を使用していないか
  8. ステロイド、アミオダロン、TKIなど、検査値や甲状腺機能に影響する薬剤はないか

そのうえで、次のように返答できます。

ICI投与中の甲状腺中毒症は破壊性甲状腺炎が多く、その場合はチアマゾールが効きません。まずFT4・FT3と推移を確認し、TRAbや甲状腺血流などからバセドウ病かどうかを評価してから、抗甲状腺薬の適応を判断するのがよいと思います。症状があれば、β遮断薬による対症療法も検討できます。

薬剤師の役割は、抗甲状腺薬の用量を提案する前に、その薬が効く病態かどうかを確認することです。

まとめ

ICI投与中にTSH低値を認めても、直ちにバセドウ病や甲状腺機能亢進症と判断してはいけません。

  • まずFT4・FT3を確認する
  • 甲状腺中毒症なら、破壊性甲状腺炎とバセドウ病を鑑別する
  • FT3/FT4比は補助所見として使う
  • TRAb、甲状腺血流、シンチグラフィを状況に応じて組み合わせる
  • 破壊性甲状腺炎に抗甲状腺薬は基本的に無効
  • 症状にはβ遮断薬を検討する
  • 数週間後の甲状腺機能低下症への移行を追う

TSHは重要な検査ですが、TSHだけで病態も治療も決まりません。

「TSHが低いから何を処方するか」ではなく、なぜTSHが低いのか、その患者の甲状腺では何が起きているのかを考えることが、適切な薬物療法につながります。

【関連記事】irAE(免疫関連有害事象)の発生頻度・発現時期と初期症状

参考文献

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この記事を書いた人

大学病院勤務18年目の病院薬剤師。

血液腫瘍、がん薬物療法、免疫チェックポイント阻害薬(irAE)、レジメン管理などを中心に、日々の臨床に携わっています。

このブログでは、知識を得るだけでなく、「なぜそう考えるのか」そして「どう臨床で活かすか」を大切にしています。

教科書や添付文書だけでは分かりにくい臨床での思考過程、論文の読み解き方、新薬・レジメンの実践的なポイントなどを、病院薬剤師の視点から分かりやすく発信しています。

【資格】

日本病院薬剤師会 病院薬学認定薬剤師
日本病院薬剤師会 がん薬物療法認定薬剤師
日本臨床腫瘍薬学会 外来がん治療専門薬剤師

患者さんにより良い薬物療法を届けること、そして病院薬剤師同士が学び合える場をつくることを目標に、このブログを運営しています。

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