ICI投与中、TSHが正常なら大丈夫?―FT4も確認すべき理由

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)投与中の甲状腺機能評価では、TSHだけを見て「基準範囲内だから問題ない」と判断するのは危険です。

その理由は、ICIによる下垂体障害で中枢性甲状腺機能低下症を来した場合、FT4が低下していてもTSHが上昇せず、基準範囲内にとどまることがあるためです。

結論を先に示すと、ICI投与中はTSHを単独で解釈せず、FT4と組み合わせて評価します。特に倦怠感、食欲低下、悪心、頭痛、低Na血症、低血圧などがある場合は、TSHが正常でもFT4を確認し、下垂体障害が疑われればACTH・コルチゾールの評価につなげる必要があります。

一方で、TSHとFT4がともに基準範囲内で、疑わしい症状や経時的な低下もなければ、その時点で明らかな甲状腺機能異常を示す所見は通常ありません。「TSHが正常でも必ず異常」ということではなく、TSHだけでは中枢性病変を除外できないことがポイントです。

目次

なぜTSHだけでは中枢性甲状腺機能低下症を見逃すのか

原発性甲状腺機能低下症では、甲状腺からの甲状腺ホルモン分泌が低下すると、下垂体がそれを感知してTSHを増加させます。このため、一般的には「TSH高値、FT4低値」という組み合わせになります。

しかし、ICIによる下垂体炎や下垂体機能低下症では、FT4が低下しても下垂体から十分なTSHを分泌できません。その結果、TSHは低値だけでなく、一見正常に見える値を示すことがあります。

ここでいう「正常TSH」は、生理的に適切という意味ではありません。FT4が低い状況では本来TSHが上昇すべきであり、それにもかかわらずTSHが基準範囲内にとどまっているなら、FT4に対して不適切に正常(inappropriately normal)と解釈します。

2025年に公表された内分泌irAEのコンセンサス定義でも、新たなFT4低値と、それに見合わない正常TSHまたは低TSHは、中枢性甲状腺機能低下症を考える所見とされています。

TSHとFT4の組み合わせで考える

病態TSHFT4解釈のポイント
甲状腺機能正常基準範囲内基準範囲内症状や経時変化がなければ、通常は明らかな機能異常なし
原発性・顕性甲状腺機能低下症高値低値甲状腺そのものの機能低下を示唆
原発性・潜在性甲状腺機能低下症高値基準範囲内TSHの程度、症状、経過を含めて判断
中枢性甲状腺機能低下症低値~基準範囲内低値TSHが上昇しないことが重要。下垂体障害を疑う
甲状腺中毒症低値高値ICIでは破壊性甲状腺炎が多い。バセドウ病との鑑別も必要
破壊性甲状腺炎後の移行期低値のままのことがある低下傾向~低値TSHの回復が遅れ、中枢性甲状腺機能低下症に似ることがある

重要なのは、TSHを単独の「正常・異常」で判定せず、FT4との関係で読むことです。

なお、重症疾患に伴う非甲状腺疾患症候群(non-thyroidal illness)や、グルココルチコイドなどの薬剤によってもTSHやFT4は変動します。グルココルチコイド投与中はACTH・コルチゾールの解釈にも影響するため、投与薬、投与量、最終投与時刻を確認します。検査値が合わない場合は、ICIによる内分泌障害だけに決め打ちせず、全身状態、併用薬、治療前値、経時変化を含めて評価します。

破壊性甲状腺炎と中枢性甲状腺機能低下症は何が違う?

ICIによる甲状腺障害では、破壊性甲状腺炎が典型的です。甲状腺組織が障害され、貯蔵されていた甲状腺ホルモンが一時的に血中へ放出されるため、まず「TSH低値、FT4高値」の甲状腺中毒期を示し、その後「TSH高値、FT4低値」の原発性甲状腺機能低下症へ移行することがあります。

一方、中枢性甲状腺機能低下症は下垂体側の障害です。典型的には「FT4低値」にもかかわらず、TSHが低値または基準範囲内となります。

ただし、実臨床では単純に区別できない場面があります。破壊性甲状腺炎の甲状腺中毒期から機能低下期へ移行する際、FT4が先に低下し、抑制されていたTSHの回復が遅れることがあるためです。この時期には「TSH低値、FT4低値」となり、中枢性甲状腺機能低下症に似た検査パターンを示す可能性があります。

したがって、次の情報を合わせて判断します。

  • 直前にTSH低値・FT4高値の甲状腺中毒期があったか
  • FT4とTSHがどのように推移しているか
  • 頭痛、倦怠感、食欲低下、悪心、低血圧、低Na血症など下垂体・副腎機能低下を疑う所見があるか
  • ACTH、早朝コルチゾールなど他の下垂体ホルモン系に異常がないか
  • 必要に応じて下垂体MRI、甲状腺自己抗体、甲状腺超音波などの追加評価が行われているか

低TSHを見たときに、反射的に「甲状腺中毒症」と判断しないことが大切です。FT4が高いのか、正常なのか、低いのかで意味は変わります。

レボチロキシン開始前に副腎機能を確認する

ICI投与中に中枢性甲状腺機能低下症を疑った場合、もう一つ重要なのが副腎機能です。

下垂体障害ではTSH分泌低下だけでなく、ACTH分泌低下による中枢性副腎不全を合併する可能性があります。未治療の副腎不全がある状態でレボチロキシンを開始すると、代謝需要やコルチゾールのクリアランスが増加し、副腎クリーゼを誘発するおそれがあります。

そのため、中枢性甲状腺機能低下症が疑われる場合は、レボチロキシン開始前にACTH・早朝コルチゾールなどで副腎機能を評価します。副腎不全が疑われる、または除外できない状況では、原則としてグルココルチコイド補充を先行し、患者の状態をみながら甲状腺ホルモン補充を開始します。

ただし、副腎クリーゼが疑われる場合は検査結果を待つ場面ではありません。可能であれば治療前にACTH・コルチゾールを採血したうえで、速やかな治療が必要です。

この点は、以前まとめたICI投与中の低Na血症の鑑別や、副腎不全で好酸球が増加する理由ともつながります。倦怠感や食欲低下を「がんや治療の影響」として終わらせず、低Na血症、好酸球増加、低血圧などを組み合わせて評価することが重要です。

ICI投与中はTSHとFT4をどのくらいの頻度で確認する?

ASCOやESEなどのガイドラインでは、ICI投与中の甲状腺機能について、TSHとFT4を組み合わせて定期的に評価することが推奨されています。一般的な目安は4~6週ごとですが、レジメン、投与間隔、治療初期かどうか、既往歴、症状、検査値の変化に応じて調整します。

特に破壊性甲状腺炎の甲状腺中毒期では、短期間で機能低下症へ移行することがあるため、2~3週程度の短い間隔で再検する場合があります。

また、症状が出現した場合は、定期検査の予定日を待たずに評価します。ICI投与終了後に内分泌irAEが判明することもあるため、投与中だけの問題として扱わないことも必要です。

薬剤師が検査追加を提案したいタイミング

1.ICI投与中なのにTSHしか測定されていない

TSH単独では、中枢性甲状腺機能低下症を除外できません。施設の運用にもよりますが、少なくとも治療前のベースラインと投与中の定期評価で、TSHとFT4を組み合わせて確認できる体制が望まれます。

2.TSHは正常だが、甲状腺機能低下症を疑う症状がある

倦怠感、食欲低下、便秘、寒がり、徐脈などがあり、TSHしか測定されていない場合は、FT4の追加を提案します。頭痛、悪心、低血圧、低Na血症などを伴う場合は、下垂体障害と副腎不全を考え、ACTH・コルチゾールも検討します。

3.TSHが低い

「甲状腺中毒症」と決めつけず、FT4、必要に応じてFT3を確認します。

  • FT4高値:甲状腺中毒症を示唆。ICIでは破壊性甲状腺炎が多い
  • FT4低値:中枢性甲状腺機能低下症、甲状腺炎後の移行期、重症疾患や薬剤の影響などを検討
  • FT4基準範囲内:潜在性甲状腺中毒症が考えられるが、FT4が下限寄りで低下傾向にある場合や疑わしい症状がある場合は再検し、下垂体障害も検討

4.FT4が低下している、または治療前値から明らかに低下傾向にある

TSHが基準範囲内でも、FT4が基準値未満なら中枢性甲状腺機能低下症を疑います。FT4がまだ基準範囲内でも、治療前より明らかに低下し、症状や他の下垂体機能異常を伴う場合は、単回値だけで判断せず再検や追加評価を提案します。

5.レボチロキシンの開始が検討されている

中枢性甲状腺機能低下症の可能性がないか、副腎不全が評価されているかを確認します。特に低Na血症、低血圧、食欲低下、悪心、好酸球増加がある場合は、レボチロキシン開始前のACTH・コルチゾール評価を提案します。

なお、中枢性甲状腺機能低下症ではTSHを治療目標にできません。レボチロキシン開始後の用量調整も、FT4と症状を中心に評価します。原発性甲状腺機能低下症とはモニタリング指標が異なる点にも注意が必要です。

まとめ

  • ICI投与中は、TSHが正常でも中枢性甲状腺機能低下症を除外できない
  • 中枢性甲状腺機能低下症では「FT4低値、TSH低値~不適切に正常」となる
  • 低TSHは甲状腺中毒症とは限らず、FT4との組み合わせで解釈する
  • 破壊性甲状腺炎の機能低下期への移行では、中枢性甲状腺機能低下症に似たパターンを示すことがある
  • 中枢性甲状腺機能低下症を疑う場合は、副腎機能を評価し、必要ならグルココルチコイド補充をレボチロキシンより先行する
  • 薬剤師は、症状、低Na血症、低血圧、好酸球増加、検査値の経時変化を手掛かりに、FT4やACTH・コルチゾールの追加を提案できる

ICI投与中の甲状腺機能評価では、「TSHが正常か」ではなく、そのTSHがFT4に対して適切な反応かを考えることが重要です。

参考文献

  1. Brahmer JR, et al. Management of Immune-Related Adverse Events in Patients Treated With Immune Checkpoint Inhibitor Therapy: ASCO Guideline Update. J Clin Oncol. 2021. https://doi.org/10.1200/JCO.21.01440
  2. Husebye ES, et al. Endocrine-related adverse conditions in patients receiving immune checkpoint inhibition: an ESE clinical practice guideline. Eur J Endocrinol. 2022;187:G1-G21. https://academic.oup.com/ejendo/article/187/6/G1/6979880
  3. Schneider BJ, et al. Society for Immunotherapy of Cancer (SITC) clinical practice guideline on immune checkpoint inhibitor-related adverse events. J Immunother Cancer. 2021;9:e002435. https://jitc.bmj.com/content/9/6/e002435
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  5. 日本内分泌学会. 免疫チェックポイント阻害薬による内分泌障害の診療ガイドライン. 日本内分泌学会雑誌. 2018;94 Suppl. https://www.jstage.jst.go.jp/article/endocrine/94/S.November/94_1/_pdf/-char/ja

※本記事は医療従事者向けの情報整理を目的としています。個々の患者の診断・治療は、症状、検査所見、治療歴などを踏まえて担当医療チームで判断してください。

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この記事を書いた人

大学病院勤務18年目の病院薬剤師。

血液腫瘍、がん薬物療法、免疫チェックポイント阻害薬(irAE)、レジメン管理などを中心に、日々の臨床に携わっています。

このブログでは、知識を得るだけでなく、「なぜそう考えるのか」そして「どう臨床で活かすか」を大切にしています。

教科書や添付文書だけでは分かりにくい臨床での思考過程、論文の読み解き方、新薬・レジメンの実践的なポイントなどを、病院薬剤師の視点から分かりやすく発信しています。

【資格】

日本病院薬剤師会 病院薬学認定薬剤師
日本病院薬剤師会 がん薬物療法認定薬剤師
日本臨床腫瘍薬学会 外来がん治療専門薬剤師

患者さんにより良い薬物療法を届けること、そして病院薬剤師同士が学び合える場をつくることを目標に、このブログを運営しています。

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