ICI投与中のCK上昇=irAE筋炎?―甲状腺機能低下症を見逃さない

免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)投与中にCK上昇を認めたとき、まず思い浮かぶのはirAE筋炎ではないでしょうか。

ICI関連筋炎はまれですが、心筋炎や重症筋無力症を合併すると致命的になり得ます。そのため、CK上昇を軽視してはいけません。

一方で、CKが上昇したという事実だけではirAE筋炎とは診断できません。

ICIで比較的よくみられる甲状腺機能低下症も、筋痛や筋力低下、CK上昇を来すことがあります。甲状腺機能低下症によるミオパチーをirAE筋炎と判断すれば、ICIの不要な休薬や高用量ステロイド投与につながる可能性があります。

ただし、ここで重要なのは「CK上昇は甲状腺機能低下症かもしれないから様子を見よう」ではありません。

ICI投与中のCK上昇では、致死的になり得る筋炎・心筋炎・重症筋無力症のオーバーラップを速やかに評価しながら、TSHとFT4を同時に確認する。

これが本記事の結論です。

目次

ICI関連筋炎はまれでも、見逃せない

ICI関連筋炎の頻度は高くありません。ランダム化比較試験を対象としたメタ解析では、発症率は約0.38%と報告されています。

しかし、一般的な炎症性筋疾患と比べて、ICI関連筋炎には次のような特徴があります。

  • ICI開始後、比較的早期に発症することが多い
  • 急速に進行することがある
  • 四肢近位筋だけでなく、眼筋・頸部筋・球筋・呼吸筋が障害されることがある
  • 心筋炎や重症筋無力症を合併することがある
  • CK値と重症度が必ずしも一致しない

ICI関連では、筋炎・心筋炎・重症筋無力症が2者または3者のオーバーラップ症候群として現れることがあります。

したがって、CKの高さだけを見て緊急度を判断するのは危険です。

CKはICI投与前にベースラインを確認しておきたい

ICI関連筋炎では、CK上昇が症状に先行することがあります。そのため、ICI投与前にCKを測定し、ベースラインを把握しておくことが望まれます。投与前からCKが高値の場合は、運動、外傷、スタチンなどの併用薬、甲状腺機能低下症などの影響を確認しておくと、その後にCKが上昇した際の判断に役立ちます。

また、施設で対応可能であれば、特にICI開始早期はCKを経時的に確認することで、症状が出現する前の筋障害を拾える可能性があります。ただし、全例で毎サイクルCKを測定することの有用性は確立しておらず、測定頻度について統一された基準はありません。

したがって、投与前のベースライン測定は積極的に行い、投与後は治療レジメン、併用薬、既存のCK値、施設の検査体制などを踏まえて測定頻度を決めるのが現実的です。なお、CKが正常でもICI関連筋炎を完全には否定できません。

症状がなくても筋炎は否定できない―CK値と症状を並行して評価する

ICI関連筋炎では、CK上昇が先行し、初期には明らかな筋痛や筋力低下を認めないことがあります。したがって、症状がないことを理由に筋炎を否定してはいけません。

症状の確認は、筋炎を疑うかどうかを決めるためというより、眼筋・球筋・呼吸筋・心筋への波及を捉え、緊急度を判断するために行います。

無症候性のCK上昇であっても、ICI開始後に新たに出現し、他の原因で説明できない場合は、症状の出現を待たずにワークアップを開始します。CKの再検と推移確認に加えて、心電図、心筋トロポニン、AST・ALT、LDH、アルドラーゼ、TSH・FT4などを確認し、近位筋、頸部筋、眼筋、球筋を含む客観的な神経学的診察を行います。

そのうえで、次の症状がないかを確認します。

筋炎を疑う症状

  • 椅子から立ち上がりにくい
  • 階段を上りにくい
  • 腕を上げにくい
  • 首が下がる、頭を支えにくい
  • 筋肉痛や筋圧痛がある

重症筋無力症や球筋障害を疑う症状

  • 眼瞼下垂
  • 複視
  • 構音障害
  • 嚥下困難、むせ
  • 咀嚼し続けると疲れる
  • 呼吸苦、息が続かない

ICI関連重症筋無力症では抗AChR抗体が陰性のこともあり、抗体陰性だけでは否定できません。

心筋炎を疑う症状

  • 胸痛、胸部不快感
  • 動悸
  • 息切れ
  • 失神、前失神
  • 原因のはっきりしない強い倦怠感

眼瞼下垂、嚥下障害、呼吸苦、胸部症状などがあれば、CKの上昇幅が小さくても緊急性は高いと考えます。

一方、初回評価で症状や明らかな筋力低下を認めなくても、その後に症状が顕在化する可能性があります。一度の「無症状」でルールアウトせず、CKの推移と診察を短い間隔で繰り返すことが重要です。

CK上昇を見たら、心筋炎を必ず意識する

ICI関連筋炎を疑う場面では、心筋炎の併発を同時に評価する必要があります。

初期評価として検討したいのは次の項目です。

  • 心電図
  • 心筋トロポニン
  • BNPまたはNT-proBNP
  • 心エコー
  • CKの推移

なお、CK-MBは骨格筋障害でも上昇し得るため、ICI関連筋炎が疑われる状況では心筋特異性に限界があります。CK-MB単独で心筋炎の有無を判断せず、心筋トロポニンの推移、心電図、心エコー、必要に応じた心臓MRIなどを組み合わせて評価します。

所見に応じて循環器内科へ相談し、心臓MRIなどの追加評価を検討します。

また、CKが低下したことだけで心筋炎も改善したとは判断できません。 ICI関連筋炎と心筋炎の合併例では、ステロイドなどの治療後にCKが速やかに正常化しても、心筋トロポニン高値が長期間持続したり、遅れてピークを迎えたりすることがあります。骨格筋はCK、心筋はトロポニンや心電図など、それぞれの指標で個別に経過を追う必要があります。

甲状腺機能低下症でもCKは上昇する

甲状腺機能低下症では、倦怠感、筋痛、筋けいれん、近位筋優位の筋力低下などを伴う「甲状腺機能低下症性ミオパチー」を生じることがあります。

CK上昇は決して珍しい所見ではありません。2005年の報告では、CK上昇は顕性甲状腺機能低下症の57%、潜在性甲状腺機能低下症の10%に認められました。多くは軽度から中等度の上昇ですが、まれに著明なCK上昇や横紋筋融解症を来すこともあります。

つまり、CKが高いから炎症性筋炎、CKが非常に高いから甲状腺機能低下症ではない、とは言い切れません。

ICI投与中は甲状腺機能異常そのものが比較的多いため、CK上昇時の鑑別として特に意識する必要があります。

irAE筋炎と甲状腺機能低下症性ミオパチーの見分け方

両者を単一の検査値で区別することはできません。症状、発症経過、心筋・神経症状、甲状腺機能を組み合わせて判断します。

評価項目ICI関連筋炎を疑う所見甲状腺機能低下症性ミオパチーを疑う所見
発症経過急性〜亜急性、急速な悪化比較的緩徐なことが多い
筋症状近位筋力低下、頸部筋力低下、筋痛筋痛、こわばり、筋けいれん、近位筋力低下
眼・球症状眼瞼下垂、複視、嚥下・構音障害が重要。重症筋無力症のオーバーラップを示唆する通常は前景に立ちにくい
呼吸器症状呼吸筋障害や重症筋無力症を疑う重症例を除き前景に立ちにくい
心臓所見トロポニン上昇、心電図異常なら心筋炎を疑うトロポニン上昇は典型的ではなく、認めれば別病態を評価する
CK正常〜著明高値まで幅があり、臨床的重症度と必ずしも一致しない軽度〜中等度が多いが、著明高値もあり得る
甲状腺機能診断を決める所見ではない原発性:TSH高値・FT4低値/中枢性:FT4低値・TSH低値〜不適切正常
関連病態心筋炎・重症筋無力症がオーバーラップし得るため、積極的に評価する破壊性甲状腺炎からの移行や、下垂体炎・ACTH分泌低下症を評価する
主な治療ICI休薬の検討、重症度に応じた免疫抑制レボチロキシンによる補充。中枢性では副腎不全の評価・治療を先行する

この表はあくまで目安です。ICI関連筋炎と甲状腺機能低下症は併存し得るため、二者択一で考えないことが重要です。

TSHだけでなくFT4も確認する

CK上昇時に甲状腺機能低下症を評価するなら、TSHだけでなくFT4も確認します。

原発性甲状腺機能低下症

  • TSH高値
  • FT4低値

ICI関連の破壊性甲状腺炎では、一過性の甲状腺中毒症を経て甲状腺機能低下症へ移行することがあります。過去のTSH・FT4の推移も確認すると、病態を捉えやすくなります。

中枢性甲状腺機能低下症

  • FT4低値
  • TSH低値または「正常範囲内」

FT4が低いにもかかわらずTSHが十分に上昇していなければ、下垂体炎などによる中枢性甲状腺機能低下症を考えます。

この場合、ACTH分泌低下症を合併している可能性があります。レボチロキシンを先に開始すると副腎クリーゼを誘発するおそれがあるため、コルチゾールとACTHを確認し、副腎不全が疑われる場合はグルココルチコイド補充を先行させます。

「TSHが正常だから甲状腺機能低下症ではない」と判断しないことが重要です。

関連記事:ICI投与中にTSHだけでは中枢性甲状腺機能低下症を見逃す理由

CK上昇時に確認したいその他の原因

ICI投与中であっても、CK上昇のすべてがirAEとは限りません。次のような原因も確認します。

  • 激しい運動、長時間歩行
  • 転倒、外傷、筋肉注射
  • けいれん発作
  • 感染症、発熱
  • 脱水
  • スタチン、フィブラートなどの薬剤
  • 電解質異常
  • 腫瘍や治療に伴う長時間の臥床・圧迫

特に甲状腺機能低下症とスタチンの併存は、ミオパチーのリスクを高める可能性があります。薬剤歴だけでなく、運動や転倒など検査前の状況も聞き取ります。

実務ではどう動くか

ICI投与中にCK上昇を認めた場合、次の順番で整理すると見落としを減らせます。

1.症状の有無にかかわらず評価を開始する

ICI開始後に新たなCK上昇を認めた場合は、無症状でも筋炎を鑑別から外しません。CKの再検とともに、心筋障害、甲状腺機能、併用薬、運動・外傷などを並行して評価します。

眼瞼下垂、複視、嚥下障害、構音障害、呼吸苦、胸痛、動悸、失神の有無を確認します。

これらを認める場合は、CK値にかかわらず筋炎・重症筋無力症・心筋炎のオーバーラップを想定し、速やかな専門科連携が必要です。

2.心筋障害を評価する

心電図、心筋トロポニンなどを確認します。異常があれば、循環器内科への早期相談を検討します。

3.CK上昇を再確認する

CKを再検し、上昇傾向か改善傾向かを確認します。筋障害ではCKとともにAST・ALTが上昇することがあり、irAE肝炎と誤認しないよう注意が必要です。特にAST優位の上昇では、CK、LDH、ビリルビン、ALP、γ-GTPなどを併せて上昇源を評価します。CKが著明高値の場合は、腎機能、カリウム、尿所見などから横紋筋融解症も評価します。

4.TSHとFT4を確認する

甲状腺機能低下症を鑑別します。TSHだけで判断せず、FT4との組み合わせで原発性か中枢性かを考えます。

5.他の原因を確認する

併用薬、運動、転倒、けいれん、感染症、脱水、電解質異常などを確認します。

6.必要に応じて筋炎の精査へ進む

CK上昇が他の原因で説明できない場合、上昇傾向にある場合、一定期間持続する場合は、明らかな症状の出現を待たずに神経内科・リウマチ膠原病内科などへ相談します。専門医による神経学的診察に加え、筋電図、筋MRI、自己抗体、呼吸機能評価、必要に応じて筋生検などを検討し、客観的な筋障害の所見を集めます。

初回検査で明らかな異常を捉えられなくても、発症初期を完全には除外できません。CKの推移や診察所見を経時的に再評価します。

治療が大きく異なるからこそ、鑑別が重要

ICI関連筋炎では、ICIの休薬と重症度に応じたグルココルチコイド治療が基本となります。嚥下障害、呼吸筋障害、心筋炎、重症筋無力症の合併が疑われる場合は、入院管理を含む迅速な対応が必要です。

一方、甲状腺機能低下症性ミオパチーの中心となる治療はレボチロキシン補充です。ICIによる内分泌障害は、ホルモン補充によって管理できれば、内分泌障害だけを理由にICIを一律に永久中止する必要は通常ありません。また、甲状腺機能低下症そのものに対して高用量グルココルチコイドをルーチンに投与する根拠はありません。

CK上昇を「irAE筋炎」と即断すると治療が過剰になり得ます。一方で「甲状腺機能低下症だろう」と決めつけると、致死的なオーバーラップ症候群を見逃すおそれがあります。

まとめ

  • ICI投与中のCK上昇は、irAE筋炎を疑う重要な所見である
  • ただし、CK上昇だけではirAE筋炎と診断できない
  • CK上昇が症状に先行することがあり、無症状でも筋炎は否定できない
  • 症状の確認は、筋炎を疑う入口というより緊急度を判断するために重要である
  • 眼瞼下垂、嚥下障害、呼吸苦、胸部症状があれば、重症筋無力症・心筋炎の合併を急いで評価する
  • CK値の高さと重症度は必ずしも一致しない
  • CK-MBは骨格筋障害でも上昇し得るため、単独で心筋炎を判断しない
  • 甲状腺機能低下症でも筋痛、筋力低下、CK上昇を来し得る
  • CK上昇時はTSHだけでなくFT4も確認する
  • FT4低値・TSH低値〜正常なら、中枢性甲状腺機能低下症とACTH分泌低下症を考える
  • irAE筋炎と甲状腺機能低下症は併存し得るため、二者択一で考えない
  • ICI投与前にCKのベースラインを確認し、投与後の新規上昇を判断できるようにする

ICI投与中のCK上昇を見たときに必要なのは、すぐに病名を一つに決めることではありません。

症状の有無にかかわらず致死的な筋炎・心筋炎・重症筋無力症の評価を開始しながら、甲状腺機能低下症を含む修正可能な原因を並行して評価すること。

CKという一つの検査値から、心筋・神経筋接合部・骨格筋・内分泌まで視野を広げることが、ICI治療を安全に継続するために重要です。

関連記事

参考文献

  1. Hamada N, et al. Incidence and Distinct Features of Immune Checkpoint Inhibitor-Related Myositis From Idiopathic Inflammatory Myositis: A Single-Center Experience With Systematic Literature Review and Meta-Analysis. Front Immunol. 2021;12:803410. doi:10.3389/fimmu.2021.803410
  2. Aldrich J, et al. Inflammatory Myositis in Cancer Patients Receiving Immune Checkpoint Inhibitors. Arthritis Rheumatol. 2021;73:866-874. doi:10.1002/art.41604
  3. Schneider BJ, et al. Management of Immune-Related Adverse Events in Patients Treated With Immune Checkpoint Inhibitor Therapy: ASCO Guideline Update. J Clin Oncol. 2021;39:4073-4126. doi:10.1200/JCO.21.01440
  4. Brahmer JR, et al. Society for Immunotherapy of Cancer (SITC) clinical practice guideline on immune checkpoint inhibitor-related adverse events. J Immunother Cancer. 2021;9:e002435. doi:10.1136/jitc-2021-002435
  5. Husebye ES, et al. Endocrine-related adverse conditions in patients receiving immune checkpoint inhibition: an ESE clinical practice guideline. Eur J Endocrinol. 2022;187:G1-G21. doi:10.1530/EJE-22-0689
  6. Hekimsoy Z, Oktem IK. Serum creatine kinase levels in overt and subclinical hypothyroidism. Endocr Res. 2005;31:171-175. doi:10.1080/07435800500371706
  7. Nakagomi Y, et al. Immune Checkpoint Inhibitor-Related Myositis Overlapping With Myocarditis: An Institutional Case Series and a Systematic Literature Review. Front Pharmacol. 2022;13:884776. doi:10.3389/fphar.2022.884776
  8. 鈴木重明. 免疫チェックポイント阻害薬による筋炎. 日本内科学会雑誌. 2024;113:1366-1370. doi:10.2169/naika.113.1366
  9. Shelly S, et al. Immune checkpoint inhibitor-associated myopathy: a clinicoseropathologically distinct myopathy. Brain Commun. 2020;2:fcaa181. doi:10.1093/braincomms/fcaa181
  10. Haanen J, et al. Management of toxicities from immunotherapy: ESMO Clinical Practice Guideline for diagnosis, treatment and follow-up. Ann Oncol. 2022;33:1217-1238. doi:10.1016/j.annonc.2022.10.001
  11. Lehmann LH, et al. Cardiomuscular Biomarkers in the Diagnosis and Prognostication of Immune Checkpoint Inhibitor Myocarditis. Circulation. 2023;148:473-486. doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.123.062405

※ICI関連有害事象の診断・治療は、症状、重症度、併存疾患、がん治療の状況によって異なります。実際の対応は最新のガイドラインおよび各専門科との協議に基づいて判断してください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

大学病院勤務18年目の病院薬剤師。

血液腫瘍、がん薬物療法、免疫チェックポイント阻害薬(irAE)、レジメン管理などを中心に、日々の臨床に携わっています。

このブログでは、知識を得るだけでなく、「なぜそう考えるのか」そして「どう臨床で活かすか」を大切にしています。

教科書や添付文書だけでは分かりにくい臨床での思考過程、論文の読み解き方、新薬・レジメンの実践的なポイントなどを、病院薬剤師の視点から分かりやすく発信しています。

【資格】

日本病院薬剤師会 病院薬学認定薬剤師
日本病院薬剤師会 がん薬物療法認定薬剤師
日本臨床腫瘍薬学会 外来がん治療専門薬剤師

患者さんにより良い薬物療法を届けること、そして病院薬剤師同士が学び合える場をつくることを目標に、このブログを運営しています。

コメント

コメントする

目次