免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)投与中の下痢では、「止瀉薬で様子をみてよい下痢か」「感染性腸炎を除外すべきか」「いつステロイドを開始し、いつインフリキシマブなどを追加するか」の判断が重要です。
ICIによる下痢・大腸炎は、軽症のまま改善する例がある一方、急速に悪化して腸穿孔に至ることもあります。排便回数だけでなく、腹痛、血便、発熱、脱水、腹膜刺激症状などを含めて評価し、治療開始後も短い間隔で反応を確認する必要があります。
この記事では、国内の『がん免疫療法ガイドライン 第3版』、ASCOおよびESMOのガイドラインをもとに、irAE大腸炎の一般的な初期対応を整理します。[1][2][3]
最初に押さえたい点
日本では、インフリキシマブとベドリズマブはいずれも製剤として販売されています。ただし、ICIによる大腸炎に対する使用は、どちらも承認された効能・効果には含まれない適応外使用です。国内ガイドラインにも「保険適用外」と明記されています。[1]
irAE大腸炎では「下痢の回数」だけを見ない
CTCAEに基づく下痢のGradeは、通常、治療前のベースラインから増えた排便回数を目安にします。
| Grade | 下痢の目安 | 大腸炎を疑う所見・重症度 |
|---|---|---|
| Grade 1 | 4回/日未満の増加 | 無症状、または検査所見のみ |
| Grade 2 | 4~6回/日の増加 | 腹痛、粘液便、血便など |
| Grade 3 | 7回/日以上の増加、便失禁、入院を要する、身の回りの日常生活動作を制限 | 高度の腹痛、腸管運動の変化、腹膜刺激症状など |
| Grade 4 | 生命を脅かす状態 | 緊急処置を要する状態 |
もともとの排便回数が多い患者では、絶対回数ではなく「ベースラインからの増加」で判断します。また、排便回数が少なくても、強い腹痛、血便、発熱、腹膜刺激症状、イレウスを疑う所見があれば、単純な軽症下痢として扱うべきではありません。
治療前に確認したいこと
irAE大腸炎は除外診断です。ICI投与中という理由だけで、すべての下痢をirAEと判断しないことが大切です。
感染性腸炎を除外する
中等度以上の症状では、便培養、Clostridioides difficile検査などを行い、細菌性・ウイルス性腸炎を評価します。患者背景に応じて、サイトメガロウイルス腸炎、寄生虫感染、抗菌薬関連下痢なども鑑別します。
感染性腸炎が否定できないままステロイドや生物学的製剤を開始すると、感染を悪化させるおそれがあります。一方で、重症例では検査結果を待つこと自体が危険な場合もあるため、消化器内科・感染症科と連携しながら検査と治療を並行します。
腸管外のirAEや薬剤性下痢も確認する
ICI投与中の下痢が、すべてICIによる大腸炎とは限りません。甲状腺中毒症では、下痢とともに動悸、頻脈、発汗、振戦、体重減少などを認めることがあります。また、副腎不全や下垂体炎でも、倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐、腹痛、下痢などの消化器症状を呈します。[1][9]
下痢以外の症状や検査所見も確認し、必要に応じてTSH、FT4、血清コルチゾール、ACTH、電解質、血糖を評価します。副腎不全が疑われる場合は、可能であればステロイド投与前にコルチゾールとACTHを採取します。ただし、低血圧や意識障害など副腎クリーゼが疑われる場合は、検査結果を待って治療を遅らせてはいけません。
下剤、酸化マグネシウム、抗菌薬、メトホルミン、経腸栄養、抗がん薬など、下痢の原因または増悪因子になり得る併用薬・治療も確認します。なお、内分泌irAEと大腸炎は併存する可能性があるため、甲状腺機能異常や副腎不全が見つかっただけで大腸炎を否定しないことも重要です。
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穿孔・イレウス・中毒性巨大結腸症を見逃さない
強い腹痛、腹部膨満、発熱、腹膜刺激症状などがあれば、腹部CTを優先して腸管壁の肥厚、拡張、菲薄化、穿孔などを確認します。内視鏡検査は診断や治療選択に有用ですが、重症例では穿孔リスクがあるため、実施時期と観察範囲を消化器内科と相談します。
便中カルプロテクチンや便中ラクトフェリンは、腸管炎症の評価や内視鏡検査の必要性を検討する補助になります。ただし、これらの値だけで治療開始を遅らせるものではありません。
止瀉薬は慎重に使う
ロペラミドなどの止瀉薬は、軽症で感染や重篤な腸炎が否定的な場合に限って検討します。炎症性大腸炎やイレウスが疑われる状況で腸管運動を抑えると、病状を見えにくくし、悪化させる可能性があります。
Grade別の初期対応
国内、ASCO、ESMOの推奨には細部の違いがあります。実臨床では、症状の強さ、内視鏡所見、全身状態、感染症リスクを加味して判断します。[1][2][3]
| 重症度 | ICIの扱い | 主な治療 | 反応評価 |
|---|---|---|---|
| Grade 1 | 原則継続可能 | 補液、食事調整などの支持療法。慎重に経過観察 | 悪化がないか短期間で再評価 |
| Grade 2 | 原則休薬 | 消化器内科へ相談。国内第3版では3日を超えて持続する場合、プレドニゾロン換算0.5~1 mg/kg/日の全身投与を開始 | 悪化、または3~5日以内に改善しなければGrade 3相当として対応 |
| Grade 3 | 休薬。再投与可否を慎重に判断 | 入院を検討し、プレドニゾロン換算1~2 mg/kg/日の静注。重症所見では早期から追加免疫抑制薬を検討 | おおむね72時間以内の改善の有無を確認 |
| Grade 4 | 原則としてICIを永続的に中止 | 入院管理、静注ステロイド。早期に追加免疫抑制薬、外科対応の必要性を検討 | 集学的に頻回評価 |
ASCOではGrade 2にプレドニゾロン換算1 mg/kg/日、Grade 3~4に1~2 mg/kg/日を推奨しています。国内第3版は、3日を超えて続くGrade 2に0.5~1 mg/kg/日、Grade 3に1~2 mg/kg/日としています。[1][2]
症状がGrade 1以下まで改善した後は、再燃に注意しながらステロイドを少なくとも4~6週間程度かけて漸減します。国内第3版では30日以上、ASCOでは4~6週間以上が目安です。早すぎる減量は再燃につながるため、排便回数だけでなく腹痛、血便、炎症反応なども確認します。
「ステロイド不応」をいつ判断するか
高用量ステロイドを開始しても改善が乏しい場合、漫然と同じ治療を続けないことが重要です。
国内第3版では、Grade 3に対する高用量ステロイド開始後3日以内に改善しない場合や、いったん改善後に再増悪した場合に、インフリキシマブ追加を検討します。[1] ASCOも、Gradeが72時間以内に1段階以上改善しない状態をステロイド不応の目安とし、インフリキシマブまたはベドリズマブを検討しています。[2]
深い潰瘍などの高リスク内視鏡所見がある場合は、3日を機械的に待たず、早期から生物学的製剤を検討する考え方もあります。治療判断を遅らせないため、Grade 2以上、特に血便や腹痛を伴う例では、早めに消化器内科へ相談しておくとよいでしょう。
インフリキシマブを追加する際のポイント
インフリキシマブは抗TNF-α抗体薬で、ステロイド不応のirAE大腸炎に対して各ガイドラインで推奨されています。ESMOは、急性重症大腸炎のステロイド非反応例ではインフリキシマブを第一選択の生物学的製剤と位置づけています。[3]
一般に用いられる用量は5 mg/kgを静脈内投与です。ASCOでは、必要に応じて14日後に2回目を投与する方法が示されています。[2]
ただし、日本で承認されているインフリキシマブ製剤の効能・効果にICIによる大腸炎は含まれていません。したがって、irAE大腸炎への投与は適応外使用です。使用前には院内手続き、患者への説明、費用・保険上の取り扱いを確認する必要があります。
また、次の状況では投与を避ける、または慎重に判断します。
- 腸穿孔、敗血症、活動性の重篤な感染症が疑われる場合
- 結核を含む重篤な感染症のリスクが高い場合
- B型肝炎ウイルス再活性化のリスクがある場合
- 中等度~重度の心不全がある場合
- 脱髄疾患など、抗TNF-α抗体薬の使用上問題となる病歴がある場合
緊急性が高い場面でも、HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体、結核スクリーニングなどを可能な範囲で速やかに行います。検査結果を待てない場合は、感染症科などと相談してリスク管理を並行します。
ベドリズマブは日本で使えるのか
ベドリズマブはα4β7インテグリンを阻害し、リンパ球の腸管への遊走を抑える薬剤です。日本ではエンタイビオ点滴静注用300 mgとして2018年に発売され、現在は既存治療で効果不十分な中等症~重症の潰瘍性大腸炎と、活動期クローン病の治療・維持療法に承認されています。[4][5]
一方、ICIによる大腸炎は承認適応ではないため、irAEに対する使用は適応外です。
腸管選択性が高いことから、全身性の免疫抑制をできるだけ避けたい場合や、インフリキシマブが禁忌・不応の場合の選択肢になります。ASCOではインフリキシマブ不応または使用できない大腸炎に、300 mgを0、2、6週、その後8週ごとに投与する用法が掲載されています。[2] ESMOも選択肢としていますが、インフリキシマブより反応がやや遅い可能性を指摘しています。[3]
184例を対象とした後ろ向き観察研究では、ベドリズマブとインフリキシマブの臨床的寛解率は同程度でした(89%対88%)。ベドリズマブ群ではステロイド曝露期間が短く、入院や再発が少なかった一方、臨床反応までの時間は長い傾向でした。[6] ただし無作為化比較試験ではなく、患者背景や治療選択による交絡があるため、優劣を確定する結果ではありません。
| 比較点 | インフリキシマブ | ベドリズマブ |
|---|---|---|
| 標的 | TNF-α | α4β7インテグリン |
| 作用範囲 | 全身性 | 比較的腸管選択的 |
| 期待される反応 | 急性重症例で速い反応を期待 | 反応がやや遅い可能性 |
| 主な位置づけ | 急性重症・ステロイド不応例 | IFX不応・禁忌例、感染リスクなどを考慮する場合 |
| irAE大腸炎に対する国内承認 | なし(適応外) | なし(適応外) |
国内第3版の「ベドリズマブ5~10 mg/kg」はどう考えるか
国内の『がん免疫療法ガイドライン 第3版』には、インフリキシマブ抵抗性の免疫関連大腸炎に対して「ベドリズマブ(5~10 mg/kg)」が有効であったとの記載があります。[1]
しかし、この箇所で引用されているHsiehらの症例報告とBergqvistらのケースシリーズを確認すると、ベドリズマブはいずれも1回300 mgの固定用量で投与されています。[7][8] また、日本で2018年に発売された当初から、成人の潰瘍性大腸炎に対する静注製剤の承認用量は1回300 mgでした。[5]
したがって、少なくとも引用された2報からは「5~10 mg/kg」の根拠を確認できません。誤記、あるいは他の薬剤・用量との混同である可能性がありますが、公開情報だけで編集過程までは断定できません。
実務上は、国内第3版の5~10 mg/kgをirAE大腸炎に対する標準用量としてそのまま採用すべきではありません。適応外使用であることを前提に、原著、海外ガイドライン、最新の電子添文、院内プロトコルを確認し、消化器内科・腫瘍内科・薬剤部で投与量を協議するのが安全です。
薬剤師が確認したいチェックポイント
ステロイド開始時
- Gradeとベースライン排便回数を確認する
- 腹痛、血便、発熱、脱水、腹膜刺激症状の有無を確認する
- 便培養、C. difficileなど感染性腸炎の評価状況を確認する
- 投与量がプレドニゾロン換算で適切か確認する
- 改善判定の期限をあらかじめ共有する
- 長期投与が見込まれる場合は、感染予防、消化管・骨・血糖管理を検討する
インフリキシマブまたはベドリズマブ検討時
- irAE大腸炎への使用が適応外であることを明確にする
- 穿孔、敗血症、活動性感染症がないか確認する
- 結核、HBVを含む感染症スクリーニングを確認する
- インフリキシマブでは心不全、脱髄疾患などの禁忌・慎重投与要因を確認する
- 初回投与後の反応評価日と、追加投与の判断基準を共有する
- 院内の適応外使用手続き、患者説明、費用の取り扱いを確認する
まとめ
irAE大腸炎では、下痢の回数だけでなく、腹痛、血便、発熱、脱水、腹膜刺激症状を含めて重症度を評価します。Grade 2以上ではICIを休薬し、感染性腸炎や穿孔を除外しながら、消化器内科と連携してステロイド治療を行います。
高用量ステロイド開始後、おおむね72時間以内に改善がみられない場合は、インフリキシマブなどの追加免疫抑制療法を検討します。日本では、インフリキシマブ、ベドリズマブともにirAE大腸炎への使用は適応外です。
ベドリズマブは国内で販売されていますが、国内第3版に記載された「5~10 mg/kg」は、同箇所の引用原著にある固定用量300 mgと一致しません。この数値を標準用量として転載せず、一次文献と最新の電子添文を確認したうえで、個別に判断する必要があります。
※本記事は医療従事者向けの情報提供を目的としています。個別の診療を代替するものではありません。実際の治療では、最新の電子添文、ガイドライン、院内手順を確認し、患者の状態に応じて判断してください。
参考文献
[1] 日本臨床腫瘍学会 編.『がん免疫療法ガイドライン 第3版』.金原出版;2023.
[2] Schneider BJ, et al. Management of Immune-Related Adverse Events in Patients Treated With Immune Checkpoint Inhibitor Therapy: ASCO Guideline Update. J Clin Oncol. 2021;39:4073-4126.
[3] Haanen J, et al. Management of toxicities from immunotherapy: ESMO Clinical Practice Guideline for diagnosis, treatment and follow-up. Ann Oncol. 2022;33:1217-1238.
[4] 医薬品医療機器総合機構(PMDA).エンタイビオ点滴静注用300mg 医療用医薬品情報.
[5] 武田薬品工業.潰瘍性大腸炎治療剤「エンタイビオ」の日本における発売について.2018年11月7日.
[6] Zou F, et al. Efficacy and safety of vedolizumab and infliximab treatment for immune-mediated diarrhea and colitis in patients with cancer: a two-center observational study. J Immunother Cancer. 2021;9:e003277.
[7] Hsieh AH, et al. Vedolizumab: a novel treatment for ipilimumab-induced colitis. BMJ Case Rep. 2016;2016:bcr2016216641.
[8] Bergqvist V, et al. Vedolizumab treatment for immune checkpoint inhibitor-induced enterocolitis. Cancer Immunol Immunother. 2017;66:581-592.
[9] Husebye ES, et al. Endocrine-related adverse conditions in patients receiving immune checkpoint inhibition: an ESE clinical practice guideline. Eur J Endocrinol. 2022;187:G1-G21.
記事設定メモ
- 推奨スラッグ:
irae-colitis-management - メタディスクリプション:irAE大腸炎のGrade別対応、ステロイド不応の判断、インフリキシマブ・ベドリズマブの位置づけを解説。国内では両剤とも適応外であり、ベドリズマブ「5~10 mg/kg」記載と原著300 mgとの不一致も検証します。
- 想定カテゴリー:副作用対策/irAE
- 想定タグ:免疫チェックポイント阻害薬、irAE、大腸炎、下痢、インフリキシマブ、ベドリズマブ、適応外使用

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