パクリタキセルを投与する患者さんに緑内障があったら?

pharco

パクリタキセルの前投薬としてジフェンヒドラミンが指定されているけど、緑内障の患者さんなど禁忌の患者さんにはどうするべき?
他の抗ヒスタミン薬でも大丈夫?

taka

結論からいうと、ジフェンヒドラミンによる抗コリン作用が問題になるのであれば、第二世代の抗ヒスタミン薬に変更しても問題ないでしょう。ただし、添付文書から逸脱するため、患者さんに対する説明と同意は必要になると思います。

pharco

そこまでやる必要あるの?

taka

日本の法律上、添付文書は法的な拘束力があるため、「添付文書とは異なる使用方法だけど治療上必要のため〇〇に変更します。」といった一言があると問題になりにくいでしょう。

taka

実臨床でよく行なっていることとは思いますが、万が一の事態が起こった場合の念の為の対策となります。

pharco

へー、そうなんですね。わかりました。ありがとうございます。

pharco

ちなみに、第二世代の抗ヒスタミン剤でも効果は大丈夫なのかしら?

taka

経験上、末梢に対する抗ヒスタミン作用はそこまで変わりなく問題ないという印象です。中枢移行のデータはあるのですが、抗ヒスタミン作用の比較試験は一般的に行われていないため、経験則とはなってしまいますが。

pharco

 なるほどー、勉強になりました!ありがとうございます。

目次

はじめに

みなさま、改めましてtakaです。病院薬剤師をやっていると、上記のようなケースは多々遭遇するかと思います。

「いやいや、そんなのわかってますよ!」と思われるかも知れませんが、添付文書に「ジフェンヒドラミンを内服」という文言が書いてある以上、緑内障などの抗コリン薬が禁となる患者さんにどうすべき?と迷ってしまうこともあるのではないかと考え記事にしました。

あくまで私の勤務先で行なっていること、および私見ですので、実臨床で患者さんに投与する際は施設の規定などに従ってください。患者さんに関しましては、主治医の指示にしっかりと従っていただき、疑問点は医療を受けている医療機関にお問い合わせください。

興味のある方は最後までご覧いただけますと幸いです。

この記事でわかること

  • 添付文書上、ジフェンヒドラミン等の抗ヒスタミン剤が推奨されているにもかかわらず、患者さんがその禁忌症を持っていた場合の対処方法
  • 添付文書にアレルギー予防として「ジフェンヒドラミンの投与」が推奨されている薬剤

パクリタキセルについて

パクリタキセルは、記事執筆時において下記のがん種に使用できる薬剤です※1

※1 タキソール®添付文書より

適応がん種

○卵巣癌

○非小細胞肺癌

○乳癌

○胃癌

○子宮体癌

○再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌

○再発又は遠隔転移を有する食道癌

○血管肉腫

○進行又は再発の子宮頸癌

○再発又は難治性の胚細胞腫瘍(精巣腫瘍、卵巣腫瘍、性腺外腫瘍)

また、パクリタキセルは脂溶性の薬剤であり水にほとんど溶けません。そのため、可溶化剤として「ポリオキシエチレンヒマシ油」が使用されており、それがアレルギーの原因になっている可能性があります。また、アルコール(無水エタノール)も含有しているため、全くお酒が飲めない患者さんには注意が必要です。

アレルギー予防として前投薬が必須となりますが、詳細は添付文書を参照していただければと思います。その記載の中で「ジフェンヒドラミンの内服」とありますが、添付文書でジフェンヒドラミンに限定されていると、緑内障や前立腺肥大症の患者さんには投与禁忌となってしまいます。

そこで「パクリタキセルの投与は諦めよう」となることはまずないと思いますが、実際に第二世代抗ヒスタミン剤等を使用するのは問題ないか調べてみました。

これまでにどのような報告があるでしょうか?

医中誌、pubmedで調べてみましたが、ほとんど合致しませんでした。
(医中誌:26件、PubMed:22件)

検索式等は以下の画像を参照ください。

そのなかでも1つ、興味深い症例報告※2がありましたので紹介します。

閉塞隅角緑内障患者におけるパクリタキセル治療時の過敏症対策としてフェキソフェナジン使用の検討

癌と化学療法 2010 p.107-110

緑内障の患者さんに、ジフェンヒドラミンではなくてフェキソフェナジンを使用しても問題ありませんでしたよ〜というのが報告の趣旨です。2例のみの報告ですが、パクリタキセルのアレルギーの出現も制御できており、臨床的に意義のある報告なのではないかと思います。

医中誌からダウンロード出来る方は一度読んでみても良いかもしれません。ちなみにpubmedでも上記症例報告が検索結果に出てきます。

私の勤務先では

ジフェンヒドラミンが禁忌になってしまう症例の場合、私の勤務先ではロラタジン等にすることが多いです。添付文書上、「眠気を催すことがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転 等危険を伴う機械の操作には従事させないよう十分注意すること」の一文がないこと、フェキソフェナジンよりも感覚的に抗ヒスタミン作用が強いことが理由として挙げられます。

パクリタキセル以外にも、抗がん剤の前投薬として抗ヒスタミン剤を使用する際にロラタジンは多く使用されていますが、アレルギーの出現頻度は高くなく、ちゃんと制御されているように思われます。

他の薬剤でジフェンヒドラミンが規定されているものは?

PMDAの医療用医薬品 情報検索のページで、「項目内検索」→「用法及び用量に関連する使用上の注意 」として、検索ボックスに「ジフェンヒドラミン」と入力すると下記のような結果になりました。

パクリタキセルは後発品が入っておりますので、パクリタキセル以外の成分だとエロツズマブ(エムプリシティ®)、ゲムツヅマブ オゾガマイシン(マイロターグ®)、テムシロリムス(トーリセル®)、ラムシルマブ(サイラムザ®)が該当します。

しかし、検索方法が旧記載要項のため、もしかしたら正確ではないかもしれません。ただ、上記薬剤を使用する患者さんで、緑内障や前立腺肥大症をお持ちであれば第二世代抗ヒスタミン剤を使用することを検討しても良いかもしれません。

まとめ

症例報告で発見できたのはパクリタキセルだけでしたが、その他の薬剤においても、禁忌症があるのであれば第二世代抗ヒスタミン剤も選択肢に入るのではないかと思います。

しかし、添付文書に記載のある以上、逸脱して有害事象等が生じたときにはトラブルになる可能性が否定できませんので、あらかじめ患者さんに説明しておくことが重要であると考えます。

私の経験上では、抗ヒスタミン剤を変更したからといって問題となったことはほとんどありません

また、重篤なアレルギーが出現した場合は点滴の抗ヒスタミン剤を投与することもやむを得ないと考えます。治療介入のメリットが非介入のデメリットを上回ると考えられますので、その際は禁忌であったとしても仕方がないのかなぁと私は思います。

この記事が皆様のお役に立てたのであれば幸いです。質問やご意見等ありましたらこちらまでお願いいたします。

ちなみに私は、医薬品集として以下のものを使用しています。基本はアプリを使用していますが、コンテンツ的にも画像的にも充実していて使い勝手は良いですよ!


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この記事を書いた人

2007年に地方大学の薬学部を卒業し薬剤師資格を取得。
その後、臨床で活躍できる薬剤師を目指し、臨床コースのある都内の薬学部大学院へ進学。
薬剤師資格を活用して大手チェーンの調剤薬局・ドラッグストアでアルバイトを経験。
大学院では縁あってタイのKhon Kaen Universityへ留学、がん化学療法の研修を1ヶ月間履修。
卒後は都内の大学病院へ就職し、注射、調剤のほかに手術室、ICU、医薬品情報室など数々の業務を担当。
その中で自分の持っている知識をフル活用してがん患者さんに還元したいと思い、がん薬物療法関連の資格を取得し現在に至る。

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